死を怖れよ
佐楽
空虚
死ぬのが怖かったんです。
死ぬのは誰でも怖いと思うんです。
だけど僕は何もできず何も残さずただただ蹂躙されて死んでいった人たちをみてその空虚な骸がひどく恐ろしいものに見えました。
ああはなりたくないと思ったのです。
だから何者かになろうと必死に生き抜いてきました。
栄誉、報奨のためにあらゆるものを犠牲にして。
結果僕は地位、名誉、金を手に入れました。
僕はこれで満足してしまいました。
ですがいざ自分が死ぬときになって己の人生を振り返ってみたのですが僕は何をして何を残したのでしょうか。
そのことに思い当たって僕は病院のベッドのうえで死にたくない、とあがき続けました。
怖い、怖い、がらんどうの死が怖くてたまらない
そんな僕に鎮静剤を投与した医師が呆れたように言います。
「散々殺しておいて自分は死にたくないだなんてな。覚悟してすらなかったのか」
僕もわかっています。
どんな言い訳も僕のやってきたことを正当化できないでしょう。
あなた方はあの空虚な骸を見たことが無いのでしょうから。
「よう、どんな感じだナイジェル」
見舞いに同僚の方が来てくださいました。
どうもこうも最悪の気分と体調ですよと悪態をつきたかったのですがその体力すらもう僕にはありません。
「あんまりよく無さそうだな」
そう言って彼はベッドの脇に椅子を寄せて座ると僕に顔を近づけました。
「最後に自分の顔を見ておけ。今お前はどんな顔をしている」
自分の目にうつる僕の姿を見ろというのです。
僕は至極嫌でしたが顔を背ける体力ももう無かったのです。
彼の瞳にうつる僕の姿は酷く萎びた体に澱んだ目をしており憐れでした。
こんなものは僕の求めていたものではありません。
僕はせめてもの抵抗に目を瞑りました。
「死んだら誰だって抜け殻になるんだよ。どんな生き方をしようとな。だからもう怖がることなく逝け」
僕は二度と目を開けることはありませんでした。
死を怖れよ 佐楽 @sarasara554
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