第六十八話

 足が、はしごから川に落ちた。

全身が、疲労に覆われている。


 はしごを掴んで何とか再び登り、入力機に手を伸ばす。

絶対に、廣哉を《天国》に連れて行く……。

絶対に、廣哉を《天国》に連れて行く……。

絶対に、廣哉を《天国》に連れて行く……。


 何か出てこい……。何か出てこい……。

世界遺産……。

世界遺産……。

世界遺産……。

【00:13】

【00:12】

【00:11】


 画面に目をやり、思わず息を吐く。

もう、駄目だ……。

すまない、廣哉……。

お前を、《天国》に連れて行ってやれなかった……。


 思わず、目を閉じた。

再び、息を吐く。


 ヨセミテ国立公園。


 架乃子が、〝自然は偉大な芸術家〟と称えていた場所の名前を思い出した。


 〝ヨ〟……。


 〝セ〟……。


 〝ミ〟……。


 〝テ〟……。


 〝コ〟……。


 〝ク〟……。


 〝リ〟……。


 〝ツ〟……。


 〝コ〟……。


 〝ウ〟……。


 〝エ〟……。


 〝ン〟……。


 そして、【OK】の文字を押した。

頼む……。頼む……。


 画面上には、【○】と表示された。


 その瞬間、躰は再びはしごから落ち、川に叩き付けられた。

腕を上げ、機械に目をやる。

時刻は、十九時八分。

制限時間は、【00:01】の状態で点滅している。

【50/50】の表記に因って、じわじわと達成感が込み上げる。

力を失い、落ちた腕が、川に叩き付けられた。


 俺は、全ての試験をクリアした。

廣哉を、《天国》に連れて行ける。

終わった……。

最終関門が終わった……。

やった……。

やったぞ、廣哉……。

瞼が、落ちる。

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