第十三話

 ノックされた部屋のドアを開けると、其処にいたのは廣哉ではなく、クロシマだった。

宝探しからまだ一ヶ月が経ったばかりだが、一体何の用だろう。

「月本様にお話があります」

そう云ったクロシマは、続ける。


 「境国というこの世界では、各区の試験被験者と試験不適合者から十名ずつ、一時的に生前の世界へ戻る権利が得られる抽選が隔月で行われており、今回その抽選に、月本様が当選致しました」

「生前の、世界に……、戻る……?」


 「此方のカプセル剤を服用して戴くと、昏睡状態になり、その間、魂は一時的に生前の世界へ戻るという現象が発生致します」

クロシマはスーツのジャケットの内側から、銀と白のカプセル剤が入った小さなポリ袋を取り出した。


 「薬が効くのは約一時間です。薬が切れると、魂は再びこの世界に到達致します。その後は、薬の副作用に因り暫く躰が痛む場合があります」


 生前の世界に、戻れる。


 「ホントに、生前の世界に、戻れんのかよ……」

「ええ。此方のカプセル剤を服用すると、一時的に生前の世界へ戻る事が可能です。如何でしょうか。生前の世界に、行きませんか」


 生前の世界に、戻れる。

身近な人や景色が、次々と浮かぶ。


「行くよ。行かせてくれ」


 薬を飲んで、一分が経っただろうか。

ベッドの上の躰は、まるで宙に浮いている様な感覚と眠気の様なそれに覆われていく。


 目の前まで近付けた両手が透けていく。

視界が歪みながらぼやけていく。

天井が、遠ざかり、小さくなっていく。


 そして、ゆっくりと、瞼が落ちる。

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