第五話
「いやぁ、びっくりしたよ、逞真っ!! まさかお前にまた逢えるとはっ!!」
瀧森廣哉は、屋上に数列並んだベンチの内の一つに腰掛ける。
彼に連れられて来たこの場所には、煙草を吹かしている同じ恰好の男が数人いる。
「〝此処〟って……、ホントに、《死後の世界》なんだな……」
俺が呆然と呟きながら隣に腰掛けると、「ああ」と、廣哉は頷く。
「俺も最初は全然信じられなかったけど、どうやら、そうみたいだな。大体、《天国》行く為の《試験》なんて、そんなの誰が信じんだって話だよな」
明るめの茶髪。
耳に空いたピアスの穴。
俺が腕に着けらている機械と同じものと、捲られたワイシャツの袖の間から覗く十字架のタトゥー。
今、俺の隣には、廣哉がいる。
死んだ筈の、廣哉がいる。
暫く、視線が離れなかった。
そして、あの光景が、蘇る。
九月上旬。
雨上がりの、土曜の夕方。
家で試験勉強をしていると、パートが終わったらしい母から電話が来た。
廣哉が事故に遭い、意識不明らしい。
「さっき廣哉君のお母さんから電話が来たんだけど」という前置きから生じた、何処となく嫌な予感が、的中してしまった。
俺は、母が狼狽えた声で云った名前の病院に、タクシーで向かった。
病院に着き、受付で廣哉の名前を云うと、手術室に入れられた。
すると俺は、その場に立ち
咽び泣きながら床に崩れ落ちた、廣哉の母と姉。
レザージャケットを纏った、ベッドの上の躰。
酸素マスクを当てられた、血だらけの顔。
そして、直線だけが続く脳波。
廣哉が運転していたバイクに、信号無視の車が突っ込んだらしい。
逃走したその運転手は、後に捕まったと報道された。
「お前は、何で死んだんだよ」
「俺も、事故で死んだ」
「お前もか」
「ああ。大学の帰りに、ダンプに跳ねられた」
「おっ、受かったのか」
「一週間しか行けなかったけどな」
「そっか。自分が死んだ映像、なかなかグロかったろ?」
「ああ」と、俺は頷く。
「《試験官》には、絶対逆らうなよ。《地獄》に行かされっから。あと、犯罪やった場合もだ。《試験》不適合者の場合は《生前の世界》と《この世界》で犯罪やったら、その罪の重さに応じた点数が《持ち点》から引かれて、《持ち点》がゼロになったら《地獄》に行かされるけど、俺達被験者は、一回でも何か犯罪やったら、
スーツ姿の女が最後に俺がナンパした女の情報を述べた後、《持ち点》は一〇〇点などと云っていたのを思い出す。
「《天国》って、どんなトコなんだろうな」
俺は訊いた。
「解んねぇけど、《天国》に行かなきゃいけないって、何となくそんな気がする。《試験》はどんどん難しくなってるし、一ヶ月くらい前にクリアした第三関門だってマジで駄目かと思った。でも、絶対に《天国》行きてぇんだ」
廣哉は自分の左手の甲に並ぶ三つの星形のマークを眺めながら云う。
「そうだ。すごい事教えてやる。死んだ人間が全部の《試験》にクリアして、《天国》に行ける確率。ビビんなよ?」
そう云った廣哉は、わざとらしく咳払いをし、続ける。
「五二〇〇万分の一」
「えっ……?」
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