いいわけのいいわけ

白千ロク

いいわけのいいわけ

 さて、目の前には浮気ぐせが直らないクソ野郎がいる。正座で。反して私はといえば、腕を組んで仁王立ちである。今回はどういういいわけを話すかを聞いてやろうではないか。まあ、右から入って左から流れていくんですが。


「で、なにか言いたいことある?」

「殴るのは危ないと思いますねー。ケガするのはダメだよ?」


 気まずさなどどこかに置いてきたようにあははと軽く笑う男に嘆息をひとつ。ちなみに、『ケガするのはダメだよ?』というのは、私がケガをするのはよくないということである。片頬を腫らしてなにを言っているのかね。私が聞きたいのはそういうことではないのだ。そもそも、殴ってはいないからね。ビンタをしただけで。


「私が聞きたいのはそういうことではありませーん」

「うんうん。解ってるよ」


 にこにこ笑う顔は美しさしかないのだが、この顔が人を惹きつけることは理解している。なにより私が惹きつけられているのだから。ビンタをしたけれども、それはそれだ。怒っていることを示さなければ、調子に乗るし。


 曰く、この男が他の女の子となんやかんやするのは、私のためらしい。最初こそふざけんなやコイツと思ったけれども、確かに性欲が強すぎるし、全部を受け止めることはできない。だから他に行く。力ずくになって私を傷つけないようにと。


 よく解らない優しさがあるのならばそういう店に行けばいいのに、店には行かない。というか、何店舗か出禁になっているようだ。詳しくは教えてもらっていないけど、主に仕事にならないとして。まあ、美形がいれば良くも悪くも人目を集めてしまうから、しかたがないといえばしかたがないのだろう。


 浮気するならするで私の目に見えないところでやればいいのに、コイツはサークルの後輩先輩友人の友人とまあまあ近いところに手を出している。もう一度言うけれども、見えないところでやってほしい。


 言ったところで、「ヤキモチ焼いてくれないじゃない」とへらりとするだけだから強いよね。スリルを楽しんでいる変態なんだろうな。それか、私がモヤモヤする姿を見て楽しんでいるかだ。……やっぱり思考回路がおかしいんだろうね……。


 まあ、一番おかしいのは、なにをしても戻ってくるという確信しかない私だろうけど。ほら、だって私はもうコイツに囚われいるから。誰に言うまでもなく、自分が一番よく解ってるんだよ。


 ――だからちゃんと責任は取りなさいよ?




(おわり)

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