水没学園の落第生 〜留年の原因になった強すぎる危機回避能力は一旦手放すことにしたけど、どうやら恋愛フラグも回避し続けていたらしく、即日埋め合わせがありました〜
文印象
001
1-1 埋め合わせはその日のうちに
拝啓、『
恋愛フラグって危機回避の対象ですか?
というかこの1年半、回避させてましたよね? コレってその埋め合わせって事なんですよね?
――なんて俺の
腰だけで、ぴょんっと跳ねるような動きをして、目なんか
「そうです、そうです。そういうことなんです! 『魔法使い』とか『魔術師』とか『魔法少女』とか……自称させちゃった瞬間に、このチカラは空想的なものなんですと言っちゃっていることと同義で、それは作者の視点――メタ視点なんですよ」
確かに、そのチカラが一般的な認知や理解を得られる前は、畏怖の念が先行して、人知を超えた魔の力――『魔法』なんて呼ばれることもあるかも知れないけど。
でも、それが世間に認められ、普通の技術になったのならば――
「普通に考えて『魔』なわけないよね」
この手の話で、初めて意見が合った。初めて意見が合う人に出会った。
俺はグラスのビールを勢いよく流し込む――ああ、何で「酒が不味くなる」の対義語は存在しないんだ。今、正にそれを使いたいのに。
というか、こんな視点を持って創作物に触れる捻くれ者が、俺以外にも居るとは思わなかった。
「まあでも魔界とか悪魔とか、そっちの『魔』なら、どういう背景でもその使い方で良いんだろうけどね」
「そういう概念的な『魔』が存在してしいるという事実を踏まえても、やっぱり魔法とか魔術は、人類の畏怖から生まれた呼び方……理解出来ないことへの恐れの感情から来るものだと思うんです」
――ふむ。とことん考えが合うな。
いや……寧ろ、合わせに来ているんじゃないかと勘繰りたくなってしまう。
「大昔の物理学者達なんかも……その研究や考え方が、当時の一般市民には意味不明過ぎて、それが理由で魔術師って呼ばれてたりしていたんだよね」
「それこそ、理解出来ない怖さから来てますよね! だから、魔法とかの単語群は『理解不能なチカラ』って意訳することが出来て――そうすると、そのチカラが一般化されて市民権を得ているみたいな舞台設定と、大きな矛盾を生じるわけです」
「考える手間が省けるメリットはあるのかもね」
「それは――読み手のですか? 書き手のですか?」
「両方。その単語を使えば、読み手も何となく勝手に『きっと、ああいうチカラで、だいたいこういう背景で――』とか、有りもしない行間を読み取ってくれるじゃん? 書き手も、最悪ノーモーションで使うことも出来るし」
「有りもしない行間……ノーモーション……先輩も結構ディスりますねぇ」
話していて、自分でも顔が分かりやすくニヤけているってわかる。
――この子と話すのは楽しい。
こういう話をすると、アイツは「……暇だな」って言うだろうし、あの人は「
平然とやり過ごしてきたけど、その度、悲しくなるんだ――ちょっと酒が不味くなるくらいには。
「それで言うと私達のチカラも、もう全然普通なことなのに……未だに魔法とか呼ぶ人が居たりするのも不思議ですよね」
「それはだいたい、非水没地域に移住した人達の感想でしょ。新しく生まれた技術や知識を受け容れるのが、どうしても怖い人種もいるらしい」
「それ以前の自分が否定されているように思うんでしょうか」
「その方が、考える必要が無くて楽だからじゃない?」
「フフッ……先輩、さっきから言い方にトゲ有り過ぎ」
「そう?」
また、グラスのビールを勢いよく流し込む――口角が緩んで
知ってか知らでか、俺から少しタイミングを遅らせてグラスに口を付けるあたりも、この子は愛らしい。
というか――
そんなことよりも――――
盛り上がり過ぎてうっかり忘れているが、今話している相手は2つ下の後輩の女子なんだよな。
それに今、何時だと思っているんだ。
23時台も後半――ギリギリ未だ10月23日か、良かった……じゃない、もう日が回りそうじゃないか!
今日初めて会ったばっかりの年下の女子を? 自分の部屋に上げて? 料理を作ってもらって? お酒を飲みながら? 夜中まで下らない話で盛り上がる?
――えええ? ちょっと待って、大丈夫かこれ。
良いのか? 俺に、こんな分かりやすいフラグ展開が起きていて。
この後、何が起きるんだ?
この後、どうしたら良いんだ?
分からない……分からな過ぎる。
確か1年半前より昔の俺だったら、こういったことへの対処法を多少なり心得ていたような気がする。耐性もあったような。
いや、そうだっけ? あったっけ? ……ん、まあ取り敢えず今は、そうだったことにしておこう。
ねえ、『
恋愛フラグを回避する理由って何ですか?
ドキドキするのは、生まれた時から決まっているとされる心臓の拍動回数を無駄遣いすることになるから、寿命を縮めるとでも言いたいのか。
それともハニートラップの可能性でも考慮していたのか。
はたまた『愛らしい』なんて思ってしまうその対象は、自分にとって弱点になってしまうとでも?
いずれにしても今朝までは……いや、今日の夕方頃までは確かに、自分の身に降りかかる危機を回避する――そんな常軌を逸したチカラが俺にはあった。
朝起きてからこの瞬間までの、俺の記憶が正しければ……。
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