第93話 黒と白


「キューン……」


「きゅーん?」


 スピカを睨むアークと、不思議そうに首を傾げるスピカ。


 鱗の色から目つきから細部は全く異なるのに、不思議と似ている両者。


 ……こうしてブラック・ドラゴンとホワイト・ドラゴンが揃う光景は、かなり珍しい。


 俺は緊張で息を呑むが、


「……キュキューン」


「きゅわっ?」


 アークは不意に顔を逸らし、クローディアの頭に乗るフレンの方を向く。


 そしてパタパタと彼の方へ近づいていき、


「キューン」


ナデナデ


「きゅわっ、きゅわわっ♪」


 小さな前足で、フレンの頭を撫でた。


「あ、あら? なんだか仲良くして頂けるのかしら……? よかったですわね、フレン」


「きゅわっ!」


 嬉しそうにするフレンとクローディア。


 ……アークにとって、ワイバーンであるフレンは遥か格下の存在。


 とても気高いブラック・ドラゴンは、自分より明確に弱いと判断した相手に対しては、むしろ好意的に接する時があるんだよな。


 まあほとんどの場合は無関心で終わるけど。


 どうやらアークは、フレンを”保護の対象”あるいは”子分みたいな存在”と見做したらしい。


 とりあえずは喧嘩しなくてよかった、というべきか。


 ……ある意味では微妙に舐められてるとも言えるが。


 仕方ないっちゃ仕方ないんだけどさ……。

 種族差があり過ぎるし……。


 そんなアークを見たスピカは、


「きゅーん♪」


 まぜてまぜて!

 と近づこうとする。


 しかし、


「! キューン!」


 不用意に近づいてきた彼女を見て、アークはバッと翼を翻して距離を取った。


 ……やっぱり、かなり警戒されてる。


 ムリもない。


 そもそもブラック・ドラゴンとホワイト・ドラゴンは種族的にライバルであり、天敵同士でもある。


 基本的には、生まれながらにして争う間柄なのだ。


 それにアークは、対等な相手に対しては警戒心が強い性格みたいだし。

 もう典型的なブラック・ドラゴンって感じ。


 いくらスピカが人懐っこいとはいえ、天敵である彼女が仲良くするのは難しいかもな……。


「きゅーん……」


 露骨に距離を置かれて、なんとも寂しそうにするスピカ。


 うぅ……かわいそうに……!

 後でたくさん慰めてあげるからな……!


「こらアーク、そんな態度じゃスピカちゃんに失礼だろう?」


「キューン」


「……驚いたわ、まさかブラック・ドラゴンとホワイト・ドラゴンが揃ってる光景が見られるなんて!」


 なんとも感激した様子でロゼが言う。


 そういえば彼女はスピカのこともすぐにホワイト・ドラゴンと見抜いてたもんな。


 彼女もこの光景の珍しさを理解しているってことか。


「こうして見ると、ブラック・ドラゴンも赤ちゃんの頃はかわいいのね~! ねえ、ちょっと触っても――」


「ダメだよ」


 ――ロゼが言い終えるよりも早く、レオンが強い口調で言い放った。


「アークに触れていい人間は、僕かノエルくんだけだ。気安く触ったら許さない」


「え……あ、ごめん……」


「――それにほら、ブラック・ドラゴンは警戒心が強くて凶暴だから。怪我したりしたら危ないでしょ?」


 ニコニコとした、作ったような笑顔を彼女に向けるレオン。


 でも微妙に目が笑ってないぞ……。


 なんか怖いんだが……。


「それじゃあノエルくん、さっそくトレーニングを始めようか!」


「あ……ああ、そうだな。だけどその前に一ついいか?」


「? なんだい?」


「……少し、アークの実力を見せてくれ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る