第92話 ブラック・ドラゴン


「――キューン!」


 上空で響く甲高い鳴き声。


 次の瞬間、空高くから”小さな黒い影”が猛スピードで降下してきた。


「う、うわっ!?」


 思わず驚いて身構えてしまう俺。


 だが黒い影は誰にぶつかるでもなく、翼をはためかせて突風を巻き起こすと――レオンのすぐ傍で滞空。


 そんな小さな黒い影の正体を目の当たりにした俺は――


「……っ! マジか――!?」


「紹介するよ。この子が相棒のアークトゥルス。僕はアークって呼んでる。種族は――”ブラック・ドラゴン”だ」


「キューン……」


 スピカとそっくりな鳴き声を奏でるアーク。


 ――驚きを隠せなかった。


 漆黒の鱗。

 前方にちょんと伸びる二本の角。

 短いながらも立派な翼。

 先端が僅かに尖った尻尾。


 そして――額に浮かぶ特徴的な三日月マーク。


 ――”ブラック・ドラゴン”。


 この世界のドラゴン種の中でも上位種族の一角であり、非常にレアなモンスター。


 そして……ホワイト・ドラゴンと対を成す、”ライバル”的存在でもある。


「ノエルくんの噂に触発されて、少し前から育て始めたばかりなんだ。まだ0歳だから、スピカちゃんと同い年だね」


「……え?」


「モンスターを育てるのは初めてだから最初は大変だったけど、今ではすっかり言うことを聞いてくれるようになったよ!」


「そ……そう、なんだ……」


 ――おい。

 おいおいおいおい。


 嘘だろ?

 初めてモンスターを育成する奴に、ブラック・ドラゴンが懐いてるってのか……!?


 ――あり得ないって!


 俺はダンプリでブラック・ドラゴンを育ててたから、よくわかる。


 彼らはドラゴンの中でも極めて育成が難しい上級種。


 性格が総じて気難しく、特にプライドの高さが群を抜いている。


 調教師テイマーに要求してくる接し方も個体によってバラツキが大きく、好き嫌いの激しいグルメ気質で、しかも戦闘狂。


 性格によって嗜好が極端に変わるというランダム仕様も相まって、こと食事に関しては知識と経験が求められてくる。


 間違って嫌いな食べ物を与えたら、一発で親密度が0になった……なんて嘆いてる人をネットで見かけたレベル。


 加えて”ストレスを溜めやすい戦闘狂”なので、頻繁に戦いに連れ出さないとすぐに体調を崩すんだよな。


 ……そんな生き物なので、とにかく手がかかる上に目が離せない。


 レベル上げするだけで一苦労どころか二苦労。


 ――勿論、その難しさに比例するだけの戦闘力は秘めているのだが。


 ともかく、ブラック・ドラゴンは完全なる”初心者お断り”なモンスター。


 決して調教師テイマー未経験者が聞きかじった情報で育成できるような存在じゃない。


 初心者がブラック・ドラゴンを育てる難しさは……例えるなら、ダ○クソウルを初期装備で一度も死なずに初見クリアするようなもんだと思う。


 栗○チャレンジかな?みたいな。


 とにかくムリゲーなんです、はい。


 俺は1000時間やり込んだから育てられただけで。

 それでもしんどかったくらい。


 それを、レオンは――


「アハハ、ドラゴンを育てるのって難しい・・・んだね。やっぱりノエルくんは凄いや!」


 ……”難しい”、の一言で済ませるんだもんな。


 ぶっちゃけ、どうやったのかまったく想像できん……。


 もしかして……これが主人公補正ってヤツですか?

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