第68話 一心同体


「今の彼女は、もうお前の知ってるクローディア・ベルメールじゃない。知った風な口を利くな」


「「「――!」」」


 俺の言葉に、まるで度肝を抜かれましたと言わんばかりの表情をする三人。


 あ~、ちょっとスッキリした。


 やっぱり、自分が偉いとか一方的な正義だとか思い込んでる奴にフ○ックと中指を立ててやる瞬間は気持ちがいいな!


 スカッとするよ!


「あ……あなた、このアバズレの肩を持つっていうの!?」


「ああ、俺はクローディアの味方だ。なにせ彼女は、俺の”弟子”だからね」


「ノエルさん……」


「……ッ!」


 俺の返答を受け、ギリッと苦虫を嚙み潰したように悔しそうな顔をするアルベナ。


 まさか歯向かってくるとは思ってなかったんだろうな。


 やれやれ。

 傲慢なのはどっちでしょうねぇ?


 ディルクは小さくため息を吐き、


「……一応言っておくと、私は親切心で言っているのだぞ? そこは勘違いをしてほしくないな」


「余計なお世話だよ。俺は俺なりに人を判断する術を持ってる。それによると、クローディアはもうクズじゃないってさ」


「……その心は?」


フレンを見ればわかるだろ?」


 俺はフレンを見つめる。


 クローディアの足に擦り寄り、母親を心配してくれている、小さなワイバーンの姿を。


「ドラゴンは人に嘘を吐かないし、人もドラゴンに嘘を吐けない。彼らは人の心に敏感で、自分にどんな感情を向けているのか必ず見透かしてくる。無論、その人間性もね」


「きゅーん」


「フフ、そうだねスピカ。ドラゴンと調教師テイマーは一心同体」


 肩の上でかわいらしく鳴いてくれるスピカの鼻先を、俺は人差し指で撫でてあげる。


 こんなさり気ないことも、結局は信頼関係があって初めて成せるのだ。


「自分以外を本当に家畜か奴隷と思っているなら、フレンがクローディアに懐くことはあり得ない。ドラゴンは、本物の愛情がなければ応えてくれないんだよ」


「……」


「クローディアはクズじゃない。これはドラゴン調教師テイマーである俺の結論だ。戯言だと思うなら、あんたもドラゴンを育ててみればいい」


「わかった。そこまで肩を持つなら、もうなにも言うまい」


 ディルクはアルベナの肩を持つと、クルリとこちらに背中を向ける。


「行こう。彼らに構うのは時間の無駄だ」


「ちょっ……いいの!? こんな奴らパパに頼んで学園から――!」


「必要ないとも。放っておけばどうせ勝手に破滅する。それにあまりちょっかいを出すと、ロゼ・アリッサムが出てくるかもしれないよ?」


「そ、それは……」


「疫病神とはおさらばするのが一番さ」


 そう言い捨て、アルベナを連れて去って行こうとするディルク。


 帰れ帰れー。

 二度と来んなバーカ。


 心の中でペッと唾を飛ばす俺。


 すると――


「……最後に、一つだけ」


 不意にディルクは立ち止まった。


「このディルク・フェルストに仇なす態度を取ったこと……後悔しないことだ」


「やかましい。いいから早く帰れこの色男」


「フッ……」


 最後に不敵な笑みを残し、彼らはようやく俺たちの前から消えたのだった。


 あ~ウザかった!

 姿が見えなくなって清々したわ。


 …………にしても、だ。


 ディルクの奴、相当クローディアのこと恨んでたな。


 いや、恨んでたというか……あまりに一方的にクローディアのこと毛嫌いしてたというか……。


 そりゃ昔の彼女は性格悪かったのかもしれないが、それにしたって――


 ……他人の感情に土足で踏み込むのは好きじゃないんだけど、こんな光景見せられたらそうも言ってられないよなぁ。

 

 やっぱり気になるだろ。

 二人になにかあったんじゃないかって。


 ちょっと――クローディアに事情を聞いてみるか。

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