第69話 つまり諸悪の根源


「はぁ……申し訳ありませんでした。見苦しいところをお見せしてしまいましたわ……」


 クローディアは頭を抱えてため息を吐き、俺たちに対して謝罪してくる。


 いや、全然キミは悪くないんだけどね?


「きゅわっ」


「フレンも私を励まそうとしてくれましたわね。もう大丈夫ですから、安心してくださいな」


「きゅわっ!」


「……なあクローディア、聞いてもいいか?」


「ディルクたちについて、ですか?」


「ああ、なんだか随分キミのことを恨んでるみたいだった。一体なにがあったんだ」


 俺が聞くと、彼女は少し間を置いて話し始める。


「……ディルクの言った通りですわよ。私は婚約者である彼に、ずっと冷たく当たっていたんです」


「……」


「あの頃は反抗期と言いますか、周囲のなにもかもが気に入りませんでしたから。ですのでディルクとも不仲だったのですけれど……そこにアルベナが現れたのです」


「ん?」


「アルベナは私とディルクの関係を見ると、すぐ彼に取り入りました。そして公然と付き合うようになり――」


「も、もしかして、ディルクに婚約破棄をそそのかした……?」


「少なくとも、舞踏会の場で彼に抱き寄せられてはいましたわね」


 ……うわーお。


 婚約破棄モノで百万回見た光景。


 何故か婚約者と敵役令嬢が一緒になって、大衆の前で婚約破棄を宣言するヤツ。


 っていうかそれ、つまり諸悪の根源はアルベナじゃねーか!


 あいつ絶対フェルスト家の権力狙ってディルクを垂らし込んだやん!


 商人の家に生まれた彼女からすれば、大貴族の妃ってポジションは喉から手が出るほど欲しいに決まってるもん!


 ビュッセル家の財産とフェルスト家の権力を手に入れて、女帝にのし上がっちゃるけん!って絶対思ってるよ!


 そのためだけにクローディアを追い出しただろ、マジで確実に!


「そ、それじゃあクローディアは陥れられただけじゃないか! そんなの許せないだろ!」


「ええ、許せません。ですが……結局、事の発端は私の横暴なのです。その事実がある限り、悪者はクローディア・ベルメールなのですわ」


「クローディア……」


「もう、そんな顔はおやめなさい! 終わったことはいいんです!」


 彼女はフレンを持ち上げると、ぎゅっと胸元に抱き締める。


「今の私がすべきことは、この子を育て上げて一人前の調教師テイマーになること! そうでしょう!?」


「きゅわっ!」


「! ……ああ、そうだな」


 そうだ、そうだよ。

 師匠の俺が言われてどうすんだか。


 こっちも気合を入れ直さなきゃな!

 喝ッ!!!

 

「アルベナの奴に”そんなことで大貴族に戻れるワケない”ってバカにされちゃったし――実際にやって見せて、証明してやるしかないよな!」

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