第65話 たまには師匠と呼んでも


 ――クローディアによるフレンの育成が始まって、一週間が経過。


「フレン、今日も基礎ステータスの強化……特に攻撃力と素早さを上げるトレーニングをしていきますわよ」


「きゅわっ!」


「まず打ち込み台への攻撃訓練を一時間、休息を挟んでダッシュと飛行練習を一時間。その後で昼食にしましょう。メニューは”ロックバードのチキンサンド”を用意してあります」


「きゅわ~っ」


「え? もう、しょうがありませんわね。それじゃあ”サイコロりんご”もデザートにつけてあげますから」


「きゅわっ♪」


 ――今日の予定をフレンに言って聞かせるクローディア。


 俺はそんな彼女に、ただ感嘆としていた。


 ……たった一週間。


 たった一週間で、彼女は俺に頼らずトレーニングメニューを組めるようになってしまった。


 最初こそ右も左もわからないといった様子だったのに、今ではフレンの体調やメンタルを考慮できるまでになっている。


 驚くべき学習の早さだ。


 おそらく――いや間違いなく、夜遅くなどの空いた時間にトレーニングを見直し、座学を頭に叩き込んでる。


 ひょっとしたら碌に睡眠を取っていないのかもな。


 それもベルメール家を想う精神力の成せる技、か……。


 モンスターと一緒に休むことも調教師テイマーの仕事だって伝えてあるのに……。


 今日のトレーニングが終わったら、もう一度ちゃんと言っておこう。


 ……にしても、彼女は自分のことを「文武両道の才女」だなんて言っていたが――あながち間違いでもないかもな。


「――このような感じで進めようと思うのですけれど、如何かしら。ノエル師匠・・?」


「ん? ああ、いいと思――って、師匠?」


「な、なによ……あなたは私の先生なのですから、たまにはそう呼んでもいいでしょう?」


「あ、うん…………ふふっ」


「どうして笑うんですか! な、なんだか恥ずかしくなってしまうでしょう!?」


「いや、ごめん。なんだかさ――」


 ――改めて、想像もできなかったなって。


 あのダンプリの悪役令嬢から、師匠と呼ばれる日がくるなんて。


 モニターの前でダンプリをプレイしていた頃の俺に「将来クローディアはお前の弟子になるんやで」なんて言っても、絶対信じなかっただろう。


 本当に、この世界に生まれてから不思議なことばかりだ――。


「そうだね、メニューは凄くいいと思う。ただフレンの様子を見つつ、インターバルのスパンは都度調整していっても――」


 俺は彼女とメニューに関する擦り合わせを始めようとする。


 しかし――その時、


「! きゅーん!」


 俺の肩の上で、スピカが急に鳴き声を上げた。


 まるで――威嚇をするように。



「クスクス……見て? 没落貴族の負け犬が調教師テイマーを始めたという噂は、本当みたいよ?」


「そのようだ。まったく薄汚い……婚約を破棄して正解であったな」



=====


※お報せ

毎日4話投稿を続けてまいりましたが、明日より3話投稿に切り替えさせていただきます。

流石にちょっと睡眠不足でしんどくなり始めたので……( ´•̥̥̥ω•̥̥̥` )

誠に申し訳ありません……!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る