第59話 新たな赤ちゃん


 ――”ワイバーン”。


 翼竜やドラゴン・リザードなどとも呼ばれたりする、最弱のドラゴン種。


 この世界では至る所で目にする身近なドラゴンであり、最も数の多いドラゴンでもある。


 ぶっちゃけ雑魚モンスターの一角だ。


 あまりに大量に生息しているので、一部の論者たちは”ワイバーンはドラゴンではない”と言い張るほど。


「んんwwwワイバーンなどしょせんトカゲですぞwww」みたいな感じで。


 ……ちなみに俺はワイバーン=ドラゴン擁護派。


 だってドラゴン種の特徴の多くを備えているもの。


 彼らだって立派なドラゴンだ。


 もし目の前に否定派論者が現れたら「よろしい、ならば戦争だ」となるだろう。


 いいか、ドラゴンっていうのは強さや希少性だけでなく、心の持ち様もあってだな――


「ノエル、話先に進めてくれる?」


「えっ、あ、サーセン……」


 鋭い目つきで俺に催促してくるロゼ。


 遂に俺の心の声にまで突っ込みを入れてくるとは……。


 流石はダンプリの看板ヒロイン……。


「きゅわっ、きゅわっ♪」


「……あのぉ~、いい加減頭から降りてくださいませんこと……?」


 俺たちがそんなやり取りをしている傍らで、クローディアが生まれたばかりのワイバーンと戯れていた。


 ワイバーンは母親クローディアの頭に乗り、なんとも楽しそうにパタパタと動いている。


 実に微笑ましい……。

 これぞ親子のスキンシップだよな……うんうん……。



 ――話を少し巻き戻そう。


 『岩山ダンジョン』でワイバーンの孵化に立ち会った俺とクローディア。


 ワイバーンの赤ちゃんは一番最初にクローディアを見て、彼女を親だと認識してくれた。


 その後、赤ちゃんを連れてダンジョンから下山。


 生みの親であるワイバーンたちも、最後まで俺たちに接触してくることはなかった。


 そんなワケで学園まで戻り、現在ロゼとソリンを誘って俺の部屋に集まっている次第。


 ソリンはなんとも癒されながらワイバーンの赤ちゃんを見つめ、


「かわいいですねぇ~♪ この子ワイバーンの赤ちゃんなんですか?」


「成長した姿とは全然違うだろ? スピカと違って、まだ飛ぶことはできないみたいなんだ」


「いいなぁ~……。私もこれくらいすんなりドラゴンの眷属作れたらいいのに」


 羨ましそうにため息を漏らすロゼ。

 まあ気持ちはわからんでもないが……。


「なに言ってるのさ、次代アリッサム家当主の眷属がワイバーンってワケにはいかないでしょ?」


「それは、そうかもだけど……」


「この子たちみたいな下級ドラゴンと違って、上級ドラゴンの卵は本当に貴重なんだ。おいそれと手に入る物じゃないって」


「……でもあなたはご両親からプレゼントされたのよね」


「……スッ」


 目を逸らす俺。


 やめてくれ、そんな目で見るな。


 俺は本当に運がよかっただけなんじゃ……。


「きゅん、きゅーん♪」


「きゅわ? きゅわっ」


 なにやらドラゴン同士で戯れ始めるスピカとワイバーンの赤ちゃん。


 どうやらすぐに打ち解けられたらしい。


 彼女にとっては初めての同種同年代の友達となるから、さぞ嬉しいだろうな……。


 あれ、なんか目から汗が……。


「――もう! あなたたち、いい加減私を無視するのはやめていただける!?」


 唐突に怒り出すクローディア。


 お、現代のキレる若者。

 怖いわ~。


「早くこの子を頭から退かしてと言ってるの! どうやっても離れてくれなくて困っているんです!」


「そりゃ離れないよ。だってクローディアを母親だと思ってるんだから」


「は、母親って……」


「それより、キミにも大事な仕事があるだろ? ――この子に”名前”をつけてあげることだ」

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