第56話 クローディアをドラゴン調教師にしよう


 ――クローディアを一流のドラゴン調教師テイマーにしてしまおう。


 それが俺の考えたアイデアだった。


 うむ、我ながら素晴らしい考えだ。


 ワイ天才かもしれんな。


 フヒヒ、こうして彼女をドラゴン沼に引き込んでしまえば、一昼夜ドラゴンについて語り合える仲間が……。


 ……違うよ?

 決して同好の士が欲しかっただけとか、そんな理由じゃないよ?

 

 ちゃんとした理由もあるから!


 オホン、ちょっと順を追って説明しよう。


 ――まず、今の俺には”実績”と”知名度”がある。


 アース・ドラゴンに勝てるほどのホワイト・ドラゴン(スピカ)を育成した実績、

 それがロゼの眷属ドラゴンであるという知名度、

 この二つが。


 実際には誤解なんだけど、その噂を聞いてクローディアは婚約を迫って来たワケで。


 そんな突飛な行動を起こさせるくらいには、ブランド力を獲得していると見ていいだろう。


 まあ要は、俺は世間から”ドラゴン育成の名手”であり”アリッサム家に重用されるかもしれない人材”と思い込まれてるってこと。


 ――だったら別に婚約しなくても、その”実績”と”知名度”を利用すればいいだけじゃね?


 そう思ったのだ。


 つまりクローディアを”ロゼの眷属ドラゴンを育てた調教師の一番弟子”にしてしまえばいい――と思い立ったのである。


 ……スピカを政略に利用したような気が云々~、というモヤモヤ感はあるけど、これは一旦飲み込もう。


 クローディアのためにな。


 ともかく、彼女を立派なドラゴン調教師テイマーにする。


 最初は大変だし苦労もするだろう。

 立場からして陰口も叩かれるかもしれない。

 

 けど、実力が伴えば必ず評価されてくるはず。


 だってドラゴンは嘘を吐かないからね。


 彼らを育て調教するのは、本当に難しい。


 他のモンスターと比べても調教師テイマーには高い手腕が要求される。


 それ故に、ドラゴン専属の調教師テイマーはとても数が少なく希少。


 そんな希少な人材の中でもハイレベルな育成ができるとなれば、権力者たちが放っておくはずがない。


 飼い慣らされたドラゴンを欲しがる貴族や豪商って多いからな。


 ”ドラゴン育成の名手”として、再び貴族の中で返り咲くこともできるかもしれない。


 そうして他家とパイプを作って……なんて考えるのはクローディアの仕事。


 ……ドラゴンバカの俺が彼女にしてあげられるのは、これくらい。


 後は――クローディア次第だ。




「……ゼヒィー……ゼヒィー……」


「大丈夫、クローディア?」


「だ……大丈夫なワケ、ありませんわ……!」


 彼女はめちゃくちゃ息を切らし、必死に俺に付いてくる。


 そんなに大変かな?

 山登りって。


「ちょ、ちょっと出掛けると仰ったのでついてきてみれば……いきなり『岩山ダンジョン』に登るとか、なにを考えてますの!?」


 ――そう。

 俺とクローディアは今、ダンジョンを登っている。


『岩山ダンジョン』と言って、初級~中級クラスのダンジョンだ。


 見上げれば、上空には翼を広げて飛行する翼竜の群れが。


 いや~、絶景かな。


「そ、それにモンスターが飛び回っていますけれど……た、食べられたりしませんわよねぇ……?」


「いや、油断してると食べられる」


「え」


「でもドラゴンに食べられるなんて光栄だよな! どうせ死ぬなら俺はそうやって死にたいかも、なーんて。アハハハ!」


「あなた頭おかしいですわよ!!! わ、私死にたくありませんわぁッ!」


「平気だよ。俺たちにはスピカがついてる。な、スピカ?」


「きゅーん!」


 えっへん、任せなさい!

 と自慢気に鳴いてみせるスピカ。


 なんて頼もしいんだ……。

 逞しく育ってくれて、お父ちゃんマンモスうれぴー(死語)。


「そ、それで、どうして私たちはダンジョンへ来たのか、ご説明くださる……?」


「ん? ああ――”はぐれ卵”を見つけるためさ」

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