第52話 相談してみよう


 クローディアからの逃走に成功した俺とスピカであったが、


「お待ちなさい! 今日こそ婚約してもらいますわ!」


「逃がさないから! 大人しく婚約なさい!」


「どうして逃げるの!? 婚約者ができて嬉しいですわよねぇ!」


 ――それ以降も、クローディアが俺に婚約を迫って来る事案は続いた。


 何故かは知らん。


 理由を聞く前に俺が逃げ出すから。


 だって怖すぎるだろ、普通に考えてさ……。


 モブに婚約を強要してくる悪役令嬢なんて聞いて事ないって……。


 で、そんな出来事が数日間続き――


「……もう嫌、疲れた」


「きゅーん……」


「だ、大丈夫、二人共……?」


「なんだか随分お疲れのご様子ですねぇ……」


 ロゼとソリンの前で、俺とスピカはぐったりとうなだれていた。


 今日も庭園の中で四人一緒に昼食を取る約束をしていたのだが、疲れて食べ物が喉を通りそうにない……。


「なにかあったの? ノエルがそんな姿見せるなんて珍しいけど」


「いや……えっと……」


 ……言ってもいいのかなぁ?

 クローディアに婚約を迫られてるって。


 ちなみに、彼女たちはこの件のことをなにも知らない。


 なにせクローディアは俺が一人(スピカとは一緒)のタイミングを狙って会いに来てるからな。


 目撃者も極力少ない場所も選んでるっぽいし。


 それにさあ、一応”婚約”って繊細なワードじゃん?


 ロゼとソリンは愛情ランクが上がってしまっているし、おいそれと話題に出すべき内容じゃない気がするんだよな。


 "いやー、最近クローディアに婚約を迫られてて困ってるんだよね、ハハハ!"


 ……なんて言い方したらクズ男みたいだよ。


 それに友人との会話の笑いの種にするのは、いくらなんでもクローディアに失礼過ぎると思うし。


 うーん……。


「……ノエルさん、私たち隠し事していますね?」


「へ?」


「顔に書いてあるわよ。悩みがあるって」


 ロゼとソリンは、「ふぅ」とため息がちに言った。


「いいから言ってみなさいよ。その方が少しは楽になるでしょ」


「いや、でも……」


「酷いです……ノエルさんは私たちを信用してくれないんですかぁ……」


 ひっくひっくと泣き始めるソリン。


 あれ、なんで?

 なんで俺が悪いことしたみたいになってるの?


「……きゅーん」


「え、スピカ……?」


「きゅーん、きゅきゅーん」


 二人に話してみようよ!

 と俺に鳴き声で伝えてくれるスピカ。


 ……そうか、キミがそう言ってくれるなら――。


 俺は全て話すことを決め、ここ数日に起きた出来事を彼女たちに打ち明けた。



「「――ク、クローディア・ベルメールに婚約を迫られたぁ!?」」



「……うん、そうなんだ」


 ――瞬間、二人は血相を変えて俺に詰め寄ってきた。

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