第50話 悪役令嬢


「――! キミは……クローディア・ベルメール!?」


 思わず「げっ」と顔を引き攣らせる俺。


「あら、私のことをご存知ですのね。田舎者にしては殊勝だわ」


 グルグルに巻かれた縦ロールの金髪を手で払いながら、高圧的な物言いで接してくる少女。


 ……そりゃ知ってるさ。

 あんたも一応、ダンプリのヒロインだから。


 ただ――ロゼたちのようなメインヒロインではない。


 言うなれば、クローディアは”敵ヒロイン”。


 物語に登場し、主人公やメインヒロインと敵対し邪魔をしてくる悪役令嬢。


 要するに敵キャラなのだ。


 その性格も横柄でワガママ。

 他者に対してマウントを取らないと気が済まない性分。


 さらにベルメール家は元老院に次ぐとされる巨大な権力を持つ公爵家であるため、学園内でもやりたい放題。


 ダンプリでは主人公のことを気に入って取り巻きに加えようとするが、断られたことで逆上。


 以降どの√でも共通の敵役として登場し、主人公と仲良くするヒロインたちに激しい憎悪を向けてくる。


 お陰でプレイヤーは必ずクローディアの嫌味を聞かされるハメになり、大抵の場合彼女のことが大嫌いになるんだよな。


 ちなみに俺も嫌いです、普通に。


 だってクズなんだもん。


 ネットでも「ダンプリ クローディア」で検索すると、サジェストで「ウザい」「死ね」「殺したい」「不人気」と出てくる辺り、まあ相当な嫌われっぷりだった。


 特にロゼ√でマシューと組んだ時のウザさは特筆モノだったな……。


 プレイしてて「殴りてぇ……ビキビキ」となったのは久しぶりだったよ。


 ……そんな悪役令嬢クローディア・ベルメールが、今目の前にいる。


 どうしよう、逃げたい。


 マジで関わりたくない。


「あなた、あのロゼ・アリッサムの眷属ドラゴンのお世話係をしてるんですってね。噂で聞きましたわ」


「はあ、そうですか……」


「きゅーん」


「あら、その子が先日決闘に勝利したドラゴン?」


「こらスピカ、ああいう人と目を合わせちゃいけません……!」


 かなり小声で言って、そそくさとスピカを隠す俺。


 クローディアに目を付けられたら、なにを言われるかわかったもんじゃない。


 スピカも怪しい人には近づかないように教育してかないといかんな。


「……」


 クローディアはコツコツとヒールの足音を奏で、俺に近付いてくる。


 そして、


「ノエル・リントヴルム、あなたは辺境貴族の一人息子とお聞きしましたけれど、相違ありませんこと?」


「それは間違いないけど……」


「ならばいずれ家を継ぎますわよね。妃は決まってらっしゃるの?」


「……え? そんなの聞いてどうす――」


「コホン。単刀直入に言いましょう。ノエル、あなた……私の婚約者におなりなさい」

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