第8話 親密度が5上昇


「……え?」


「ずっと憧れてたのよ、ホワイト・ドラゴンって! だからお願い!」


 ロゼは興奮しつつスピカに近付いてくる。


 あれぇ……?

 ロゼってこんなキャラだったっけ?


 ダンプリではもっとクールな感じだったような……。

 いやさっきまではクールだったが。


「この琥珀のように美しい鱗……! ふふふ、さぞスベスベするんでしょうね……!」


「ぎゅるるぅ!」


 近づくな! 噛み付くぞ!

 ――って感じで威嚇し、ロゼを敵視するスピカ。


 そりゃ生まれたばかりの彼女からすれば、ロゼは怪しさ満点だろう。


 このドラゴン限界オタクみたいなムーブを見せられたらムリない。


 でも――


「大丈夫だよスピカ。彼女は危ない人じゃない」


「きゅーん……?」


「俺が保証する。だから安心して」


 ダンプリをクリアした俺は知っているのだ。


 ロゼが真に高潔な心の持ち主だと。

 決してドラゴンに害をなす人物ではないと。


 彼女がストーリー終盤で見せたドラゴンとの絆は、涙なしには見れなかったもんな。


 だから平気だろう。


「それじゃ――ほら」


「え……いいの?」


「触りたいって言ったのはそっちだろ。スピカ、ちょっと我慢してくれな」


「きゅーん」


 しょうがないなぁ……とスピカは威嚇を止め、肩の上で身を縮こませる。

 

「そ、それじゃ……」


 恐る恐る、ロゼは白い鱗に触れる。


 そしてスピカが取り乱さないのを確認すると、優しい手つきで撫で始めた。


「うわあ……! 温かい……それに鱗が柔らかいわ……!」


「まだ生まれたばかりだからね」


「感動! これがホワイト・ドラゴンなのね……!」


 キラキラと目を輝かせるロゼ。


 わかるぞ、その気持ち……。

 卵が孵化した時の俺も、そんなリアクションだったもんな……。


 彼女はしばしスピカを撫でると、スッと手を離す。


「……ありがとう、本当に貴重な経験になったわ」


「そりゃどういたしまして」


「ところで……あなた、以前どこかで会ったことある?」


「え?」


「私を知っているような口ぶりだったもの。もしかすると、いつかの晩餐会で会ってたり……」


 ロゼは俺の顔を見つめ、不思議そうに首を傾ける。


 ……マズい。

 なんて答えよう?


 まさか「ダンプリでキミを攻略した」なんて言えるワケない。


 言っても信じてもらえんだろうが。


「そ、それはほら! アリッサム家のご令嬢ともなれば、辺境貴族にも名が知られているから……!」


「その割にはへりくだらないわね?」


「それは、その……」


「クスっ、まあいいわ」


 彼女は俺から離れ、しゃらんと軽やかに回ってみせる。


「あなたとは、なんだか仲良くできそう! お名前を教えてくださる?」


「俺はノエル・リントヴルムだ。ノエルって呼んでくれ」


「私はロゼ・アリッサム。よろしくね、ノエル」


 彼女は改めて自己紹介し、「また会いましょう」と去っていく。


 いやー、思いがけないイベントだったな。

 まさかモブの俺がロゼに話しかけられるとは。


 ま、運よく道端のコインを拾ったようなもんか。


 俺はあくまでモブofモブ。

 独りで静かで豊かにスピカを育てられれば、それ以上は――


 なんて思った時、


 ピコン!



〔〔ロゼの親密度が5上昇〕〕



 俺の頭上にそんなアイコンが表示された。


「――あれ?」


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