これは取材である!
白ごじ
フィクションだと言い張りたい
「諸君、これは取材である」
私は誰も居ない部屋で一人呟き、ゲームの電源を入れた。
「これは……取材である!」
オープンワールドゲームを始めた。
遊んでいるのではない。取材だ。
なにせ森の描写について、少し困っていたので。
実際に森に行くほどアクティブな人間ではなくとも、お手軽に雰囲気だけでも掴める時代になったのだから、便利な時代になったものだ。
昼と夜の時間帯も切り替わってくれるので、本当にありがたい。
二、三時間ほど存分に取材を楽しみ、早速パソコンに向かった。
『夜の森は暗く静かだ。動物たちも寝静まって、微かな虫の音と、すこし遠くでフクロウの鳴き声だけが命を感じさせる。ひんやりとした夜の風が木立の合間を通り抜け、濡れた地面を撫でていく。
森の中には大きな池があった。過去形だ。今では小さな水たまり程度しかない。ぬかるみに囲まれた小さな水たまりの中央には、一メートルほどの円筒形の容器があった。耐熱性と耐衝撃性を備えた銀色は泥だらけで、どうやら宇宙船の名前が書かれた場所はよく読めない(以下略)』
書いている途中で、私は思った。
なんかクドくね?
というわけで書き直すことにした。
『──そこは深夜の森の中。
幸か不幸か。大きな池を小さな池に変えた代償に、なんとか生還を果たした救命ポッドの蓋がゆっくりと開く。
「死ぬかと思った」
「何で生きているんですか?」(以下略)』
別にこれでええやん。
例えば、この小説で、現在の森と原生林との違いをそれとなく伝える必要性があるのなら、たしかに森の描写には力を入れるべきだろう。
だが、「主人公が今いるのは夜の森ダヨー」ということを示したいだけであるのならば、描写に力をいれるのはそこじゃねえ! という訳だ。
結果。
ゲーム時間、二~三時間。
執筆時間十分。
リテイク五分。
まあこういう日もある。
気にするな。
「これは取材である!」
懲りない誰かは今日もいそいそと、ゲームの電源を入れている。
これは取材である! 白ごじ @shirogoji
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