見知らぬ男のいいわけ

正妻キドリ

第1話 見知らぬ男のいいわけ

「イヤァアアアアアッ!?!?」


 私は、ブルースリーのような叫び声を上げた。


 街中で見知らぬ男に突然抱きしめられたからだ。


 その男は後ろから私を呼び止め、私の名前を聞いた後、目に涙を浮かべながら私を抱きしめた。


「ちょっ!?な、なんなんですか、あんた!?ブタ箱にぶち込まれたいんですか!?臭い飯食いたいんですか!?どういうつもりなんですかっ!?」


「えっ…?あっ、す、すいません…。あの…知り合いに似ていたもので…。」


「はぁ!?…そ、そんな言い訳通用しませんから!それに知り合いだからって突然抱きついていいわけじゃありませんよ!警察に通報します!然るべき制裁を受けて下さい!」


 私は鞄からスマホを取り出し、警察に通報しようとした。


 横目でチラッとその男のことを見た。


 彼は依然として、直立したまま私を涙目で見つめていた。


 その表情は悲しげだったが、どこか安堵してるようにも感じた。


 私はそんな彼になぜか懐かしさを感じていた。なぜなのかは、全くわからないけど…。


 同情か?人質がテロリストに同情してしまう、ストックホルム症候群的なものか?


 私は恐る恐る彼に質問した。


「あの…いいんですか?私、ほんとに通報しますよ?」


「…ああ。」


「なんでまったく抵抗しないんですか?」


「…僕は、赤の他人の君に突然抱きついたんだ。…通報されて当然だろ?」


 私は周りを見た。通行人達が、私とその男をチラチラ見ながら通り過ぎていく。


 私は少し考えてから、スマホを鞄にしまった。そして、怒りの表情を浮かべながらその男に人差し指をさした。


「…いいですか?今回だけは、知り合いと間違えたっていう、あなたの見苦しい言い訳を特別に呑んであげます。でも、金輪際私に関わらないでください!いいですね!?」


「…わかった。」


 その男は暗い声で言った。


 それを聞いた私は、彼に背中を向けてズカズカと歩き出した。


 とにかく、彼から離れたい。ただ、そう思っていた。


「あのさっ…!元気で…。」


 後ろから声が聞こえてきた。その男の声だった。


 私は振り向いて彼を睨みつけた。


「なんで、赤の他人にそんなこと言われなきゃいけないんですか?いつの間に私と仲良くなったんですか?私はあなたが誰かすらわからないんですけど。未来とかですか?今度は『自分はタイムリーパーで、あなたの命を救う為にずっと奮闘していたんだ!』とでも言い訳するんですか?」


 私は再び彼に背を向けて歩き出した。


「不快なんで金輪際私の視界に映らないで下さいね。」


 私は強い口調で彼に捨て台詞を吐いた。


 酷く気分を害したのは確かだった。


 だが、彼に感じた謎の懐かしさ。それはいつまでも心の中に残っていた。

 

 なぜ、彼がそういいわけすると思ったのか、私自身もわからなかった。

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