脱、ちっぱい!

八五三(はちごさん)

ほら、お嬢さまって……。

 中性的な綺麗な顔立ちに、漆黒の髪と瞳に背丈せたけもある――美形びけい男子だんし

 ――――無疑むぎ無慮むりょ

 チャームポイント、くせっ毛。

 これが、なかなかに、くせ毛だけに、癖があった。チャームポイントとは、その人の最も魅力的なところ。また、人を最も引き付ける部分。を、意味する。

 無慮は、御婦人たちから受けが良い。

 黙ってさえいれば、見た目通りの好青年。では、あるが。中性的な顔立ちで、寡黙にしていると不機嫌そうな印象を強調してしまい。尚且なおかつ、漆黒の髪と瞳がより、増強させてしまう。

 そこで、

 くせっ毛の髪型が、補う。整えられた髪ではなく、カジュアル少年の愛らしさ。を、演出させることにより、御婦人たちの母性本能を刺激させていた。

 そんな、

 色男。が、暗い顔で、仕えている主の屋敷の廊下を歩きながら。


「うーん。どうやって? 食べせる……か…………」


 と、

 呟きながら調理場へ。




 シャンデリアが輝く食堂の大テーブルに、純白のテーブルクロスが敷かれたうえには――肉、肉、肉、肉、肉、肉料理だけが並んでいた。

 その前に、

 銀色でゆるいウェーブ。で、百六十センチよりちょっと低いぐらいの身長に、若いという特権の透き通るほどに美しい肌をした。

 腕のいい人形師が造形した、美少女が高級な椅子に、ちょこんと座っていた。

 この屋敷の持ち主の娘である。

 ――可愛さ余って憎さ百倍――――ジュリエット・キャピュレット。

 が、

 色素の薄い茶色い瞳孔を見開いて、眼前の獲物を物色している最中。


「豚、鳥、牛……鹿、猪…………鴨」


 そこにさっと、サラダが盛り付けてある皿を滑らせメニューに加えた。


「ぉぃ」


 少女が発しているとは思えない、しゃがれた声で。執事に問いかけた。


「はい、なんでしょう? お嬢さま」


 問いかけられた執事は、真面目に答え返している。が、口元はニヤリ。


 主と執事の攻防を。

 身長は一般的な成人女性の平均値なのだが。

 腰の細さが胸の大きさを強調させてしまう。それに加えて安産型のヒップラインながら顔立ちが幼いことにより、ちょっと背徳的な魅力。が、どれほどの男たちを惑わせているか、を! 本人は気づいていない。

 ――ボン、キュ、ボン――――メイド、タチアナは固唾を呑む。




 ジュリエットは、出されたサラダの皿を知らんぷりし。素早い動きでナイフとフォークを手に持ち――ステーキにフォークを刺し、ナイフの先端を肉に入れ始めたとき。


「お嬢さま、お嬢さまは! このまま、ちっぱい。ままで、――ですか!! 野菜不足だから、ちっぱいんです。観てください、タチアナさんのお胸をぉぉぉぉぉ!!!!!」


 無慮むりょがタチアナの立派な胸を指しながら、大声で、説教した。


「…………、…………」


 自分を侮辱する言葉よりも。ジュリエットは、眼の前で顔を赤く染めながら、胸を両手で包むように抑え隠している。メイドであるタチアナの姿を見て、口の端が歪み、片頬がぴくぴく痙攣し。


「ぃま。お前のしている行為の方が、、ないだろおぉぉぉぉーーーーー!!!!」


 腰を降ろしていた、アンティークチェアー。が、破廉恥はれんちな言動を真剣に叫んでいる変態執事に、水平に飛翔して行くのであった…………。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

脱、ちっぱい! 八五三(はちごさん) @futatsume358

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ