第二章 風の大龍穴編
第21話 ラムセト砂漠
「うわ~。見渡す限り砂だ。どこを見ても砂しかないね!」
砂漠が砂だらけということはもちろん知っていたけど、授業で習うのと実際に来てみるのでは全然違うな。正に百聞は一見に如かずだ。
僕がルシアの背中から飛び降りると、ルシアは再び人の姿に変わった。降り立った砂からじんわりとした熱さを感じる。僕は砂漠の砂を掴んでみた。
「サラサラしていて気持ちいいね。でも結構な熱さだね」
『それはそうだ。お主は火の加護で火や熱への耐性があるとはいえ、暑いときには気温が50℃にもなる灼熱の大陸だ。湿度も低く砂もサラサラしているが、砂自体も日光で照らされ熱くなっておる。我らはこのまま出発するが、普通であれば日中は行動せず、日が沈み始めてから移動するのだ』
「火の加護のおかげで日中の砂漠でも平気なのか。火龍様に感謝しなきゃね」
『まあそういうことだ。
ちなみにだがこの国の者たちは風の加護のおかげで砂漠の熱や砂埃などを遮断できるため更に快適に砂漠を移動することができる。
ラムセティッド大陸で生まれたものには砂漠に適応するための加護が与えられているということだな。
それでは南に向かって砂漠中央にある風の大龍穴を目指すぞ。まずはここから3時間ほどで着くオアシスに向かう』
オアシス? 確か地理の授業で習ったな。
「オアシスって砂漠の中に水があって緑地になってるところ? ここから3時間ぐらいのところにあるの?」
『そうだ。というか、オアシスまで3時間ぐらいのところに着陸したのだ。
人族がラムセト砂漠を移動する上で大変なところは世界最大の広さと、昼は50℃にも上がり、夜は0℃近くまで低下する気温が挙げられる。
これだけでも厄介なのに、最も危険なのは魔物が住んでいるということだ』
「魔物か! 授業でも習ったよ。魔物が潜んでいる危険なところとして、例えばウェリス大森林はゴブリンやオーク、奥の方ではオーガなんかに遭遇することもあるから注意しなさいって」
『うむ。魔物も凶暴な動物もどちらも危険だが、魔物の方が遥かに危険な理由は魔力を使えるということだ。魔力を身体強化に使っているものが多いが、魔法を使う魔物もいるから注意が必要だぞ。
オアシスに向かう途中で魔物と遭遇するだろう。その魔物を倒すのもお主の修行の一つだ。剣も魔法も上達するためには実戦が一番だ。
まずは実戦で剣に慣れてもらう。火魔法は使わずに剣で魔物を倒すのだ』
いよいよ実戦か。剣を買いに行ったときから想定はしていたけど、やっぱり緊張するし不安もある。でも強くなるって決めたんだ。よし! 気持ちを切り替えて初実戦に臨むぞ。
『レアンデルよ。剣の準備はできておるようだが、マントも着用しておけ。暑さを防ぐ意味もあるが、ミスリルで編んだマントだ。魔力を流せば高い効果の防具となる』
「なるほど。マントはそういう使い方ができるんだね」
僕は背中のバッグからマントを取り出し、早速着用した。本当にすっごく軽いな。それに暑さを遮断する効果もあるみたいだし、砂漠の移動には持ってこいだね。
『それでは出発するぞ。付いてまいれ』
そういうとルシアは南の方角に駆け出した。
走ること約30分。分かったことはとにかく砂漠は走りにくい。砂に足を取られてしまう。
ルシアが上手いこと走るから、足もとをよく見ていたら、靴に魔力を集めて砂を弾くようにして走っていた。
僕もルシアの真似をしてみたらすっごく楽に走れるようになった。魔力は剣やマントだけじゃなくて色々なものに流して、色んな効果を試してみるべきだね。
さらに走ること1時間。走っても走っても周りは砂しかない。景色に変化がないからいまいち距離感が掴みにくい。すると突然ルシアが走るスピードを落として僕に話しかけてきた。
『ここまで結構な速度で走ってきたが、難なく付いてきたようだな。砂の上の走り方も我を真似て身に付けたようで感心だ。ところでレアンデルよ。準備はできておるか?』
「ん? 準備って何の準備のこと?」
『この速度であと10分ほど走ると、魔物の群れとぶつかる。しっかりと心の準備をしておくのだな』
「大丈夫だよ。気持ちの切り替えは出来ているから。とは言っても僕が勝てる魔物かどうかの不安はあるけどね」
『そこは安心しろ。お主の修行の一環であるから我は手出しをするつもりはないが、万が一の場合は補佐しよう。まあ、我が探りながら進んでおるから、そんな魔物に出くわす心配をする必要はないがな』
「分かった。いつでも大丈夫だよ」
それから走ること10分。魔物の姿が見えた。狼のような魔物の群れが6匹いるな。
『あれはデザートウルフと呼ばれる魔物だ。基本的に群れを作って行動をしている。速度と連携に気をつけろ。我は戦いの邪魔にならぬよう空中から見ることにしよう』
そういうとルシアはフワリと空中に浮かんだ。そういえば人形態のまま飛べるんだったね……。
僕は初めての実戦を前にして、セバスの教えを思い出し、心の平静を保つために大きく一つ深呼吸をして、ミスリルの剣を手にした。
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