第12話 解放された力

 それにしても今日はすごい1日だったな。ビー玉みたいな火球ファイアーボールしか飛ばせなかった僕があんなに威力のある魔法を使えるようになるなんて。


 メイソン先生も褒めてくれたし、周りのみんなも僕に魔法のコツを聞いてきたりして――


 ……ん?


 そういえばルシアが、魔法の上達には魔力の操作が重要だということを教えてくれたあとに、1段階解放するとか言ってたよね。

 そうしたらなぜか大きな魔力が使えるようになったんだよね。


「ルシア。1段階解放するってどういうことだったの? 教えてくれないかな?」

『ふむ。よかろう。お主の魔力について説明してやろう。

 人間種は一部の者を除きマナを取り込むことができない。だから加護の紋章を与えられている。ここまではよいな』

「うん。それは分かってるよ。だから周りのみんなは火の紋章からマナを取り込んでいるんだもんね」

『そうだ。本来マナはどこからでも取り込めるのだがな。人間種にとっては紋章が重要な役目を果たしている。

 ところがお主に限っては火の紋章がマナを取り込むことを遮る役目をしている』

「え? どういうこと? 僕ってみんなと同じように火の紋章の加護があるんじゃないの?」


 確かに僕の火の紋章は小っちゃいし、ビー玉みたいな火の玉しか飛ばせなかったのは事実なんだけど、マナを遮っているって何なんだろうか。


『火の紋章はお主にしっかりと加護を与えておるぞ。その左手にある火の紋章は、お主の本来の紋章に上書きする形で付与されている。少し無理やりな形で上書きしているため、そんな小さな紋章しか付与できなかったというところだ。

 そしてその火の紋章の役目はお主が取り込むマナを抑え、放出する魔力を極限まで抑えることだ。そうしなければお主に膨大なマナが取り込まれ、膨大な魔力が放出されてしまう。

 小さな子どもには操ることができないその魔力量は周囲に甚大な被害をもたらし、お主自身を危険に晒すことになるわけだ。

 そのためにお主にはマナを取り込むための紋章ではなく、マナを取り込むことと魔力の放出を抑えるための紋章が与えられたのだ』

「それって火龍様が僕を守るためにわざわざしてくれたってことだよね? そうだったんだ……。この前会ったときにお礼の一言も言わなかったよ……」

『フレアボロスがそんなことを気にするわけなかろう。それでもお主が気にするのなら今度会ったときにでも伝えることだな。

 それでお主の魔力の流れなどを見ていたのだが、想像よりもはるかに上手く魔力を操作できていた。それで抑制の力を1段階解放しても問題ないと判断したのだ。それによりお主のマナを取り込む量と魔力を放出する量が跳ね上がったというわけだ』


 解放って何だろうと思ってたけどそういうことか。ルシアが何か変なことをしたのかと思って少しドキドキしてたんだよね。


「そういうことだったんだ。突然、魔力量が増えたのを感じたから何か起きたのは分かったけど、理由が分からなかったからスッキリしたよ」

『それに最悪、解放したあとに魔力が暴走したとしても我が憑依しているから問題ない。解放を止めることもできるし、我が代わりに魔力を操作することもできた。まあその心配は杞憂に終わったがな。

 ここまでの話で分かったと思うが、お主は身体のどこからでもマナを取り込むことができるということだ。人間種は一部を除いてマナを取り込むことができないが、お主は例外の方に該当するわけだ』

「確かに今までの話からするとそうなるよね。僕も紋章からマナを取り込んでいないのは見えていたし、なんか本当にうっすらとした感じで身体に魔力が蓄えられている感覚があったけど、すっごい少ない量で入ってたということなんだね」

『そういうことだ。取り込む量を抑え、放出する量も極限まで抑えていたからお主が言うところのビー玉のような火球ファイアーボールしか使えなかったというわけだ。その少ない魔力を上手く操る生活を続けていたからお主の年齢ではありえないほどの魔力操作を身に付けることができたとも言える。物事は悪い面ばかりじゃないということだ』


 なるほど。すごく良く分かったぞ。ついでに今の疑問も聞いておこう。


「以前と比べるとマナをどんどん取り込めるようになってるのが分かるんだけど、体内の魔力が限界になった感覚は全くないんだよね」

『お主は自身の魔力貯蔵量についても把握しコントロールする術を学ぶ必要があるな。お主の魔力貯蔵量は人族ではかなり大きなものを持っておる。それに魔力変換効率も高い。どちらもまだまだ鍛えることができるが、魔力貯蔵量に関してはすでに説明したように生まれ持ったものが大きいのだ。その点でもお主は魔法の適性が高いということが分かる』




 ――コンコン


「失礼いたします。レアンデル様、お時間ですので訓練室でお待ちしております」


 いけない、剣術の訓練の時間だ! 僕は急いで準備して訓練室に向かった。


「今日は始めから試合形式の訓練といたしましょう」


 おっ! 今日の訓練は楽しみだぞ! 全く手の届かないところにいるセバスの背中が見えるかも知れない。身体強化の魔力量を多く使えるんだ。そして今までは少ない魔力量だったから出来なかったけど、剣に魔力を流して強化することもできるはず。


「お願いします!」


 僕は掛け声を発したと同時に魔力で足の身体強化を図り、一気にセバスとの距離を詰めた。


「!」


 一瞬にしてセバスを攻撃圏内に捉えた僕は訓練用の剣を即座に振り下ろす。


 入った! ……と思ったのも束の間、セバスは剣の軌跡を見切ったように、僕の剣を難なく躱す。


「レアンデル様、人は一日もあれば信じられないほどの上達を遂げるもの。強くなられましたな」

「今のはセバスの隙を突けたと思ったんだけどな」


 出鼻を狙った僕の攻撃はあっさりと交わされてしまった。


「では行きますぞ!」


 セバスから振り下ろされる剣。その剣速の速さにかわしきれないと判断した僕は剣を両手に持ち直しセバスの剣を受け止める。何だこれ? いつもよりものすごく重い! 剣を強化しなかったら負けてたよ?


「やはりこれも受け止められますか。魔力の操作が格段に強くなりましたな」


 よく見るとセバスの剣も魔力で強化されている。いつもはそんなことしてないのに。


『ほう! セバスとやらは魔力の操作が上手いな! 武器に魔力を流すのは高等な技術が必要だ。お主もやっておるがまだまだ稚拙。セバスの技術は熟練の域に達している。これはよい教官だな』


 セバスはルシアが褒めるほどの達人なんだな。強いのは分かってたけど、あらためてすごいや。今日のセバスは身体強化や剣に流す魔力が多いしとてもきれいだ。ルシアの言うとおりすごくいい勉強になるぞ!


 それからセバスとの模擬試合は30分ほど続いた。セバスめちゃくちゃ強い!! こんなに魔力操作も上手だったんだ。今までは僕の魔力量が少なかったから、それに合わせてくれてたんだな。いつもと比べて剣速も威力も段違いですごかったよ。


「本日の訓練はここまでとしましょう。――剣と魔力の融和が我が流派の奥義。レアンデル様の上達ぶりに感動いたしましたぞ」


 セバスの合図で訓練は終了。僕は自分の部屋に戻った。




『セバスに追いつくのは中々簡単には行かないようだな。まだまだ実力を見せてはいなかったが、あの太刀筋を見る限り並みの者では到達できない高みに至っておる。

 それにお主の魔力の流れも見切られておるから、弱い部分を上手く突かれていた。戦闘中に魔力を見極めながら戦うところからも技術の高さが分かる。それにしても魔力を見れる才あるものがポンポンおって面白いな』


「ん? 魔力を見れる才って?」


『なんだお主。気付いていなかったのか? 魔力の流れを見れるということはとても大きなアドバンテージになるのだぞ?

 自らの魔力操作をスムーズにできるようになることはもちろんのこと、相手の実力を読み取ることもできるし、相手がどのように魔力を使っているのかが分かるのは特に戦闘においてはとてつもないメリットだ。

 詳細に把握するためにはそれこそ訓練が必要だが、そもそも才が無いものには魔力が可視化されて見えることはないのだ』


「そうだったの!? 僕は気付いたときにはみんなの魔力が見えてたんだけど。みんなには見えてなかったんだ」


『見えている者もいるかも知れないがな。少なくともセバス、そしてお主の父であるランバート、それにメイソンという教師にも見えるはずだ』


「はぁ~。本当に知らないことがたくさんあるんだな」


『当たり前だ。物事を極めるにはたくさんのことを学ばねばならぬ。お主はこれからたくさんのことを学んでいけばよいのだ。

 どうだ? 我の旅に付いて来て色んなことを学びたくなったのではないか?』


「そういえば、そういう話だったね。忘れていたわけじゃないけど、実感がなくてさ。

 分かったよ、早く答えを出すよ」


 そういって、僕は寝る準備を整えた。


 ルシアと旅か……。僕はベッドの中でそのことばかり考えていた。

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