第3話 自宅訓練
「レアンデル様。本日の修行はここまでとしましょう」
魔法の授業で気持ちが沈んでいたけど、家に帰ってから日課である剣の修行をセバスにつけてもらっていた。
執事のセバスはものすごい腕前を持った剣の達人だ。というか剣だけに限らず弓や馬術、隠密術など武芸に関することなら何でもござれの達人である。
正直、何で執事をやっているのか分からない。道場でも構えれば門下生は殺到するだろうし、武芸指南のお抱えとしてどこでもやっていけるだろうに、なぜかうちで執事をやっている。
「レアンデル様、今日の剣には迷いが見えましたぞ。剣を持つときはいかなるときも心を一定に保つことが大事なのです。波紋の無い水面のごとく、心を波立たせてはいけません」
「今日は学園で嫌なことがあったから剣に出てたんだね。気を付けるよ。僕はこのあと素振りをしていくね」
「かしこまりました。このまま鍛え続ければ剣聖と呼ばれるのも夢ではないですぞ」
「そんなお世辞はいらないよ。でもありがとう、やる気を出させてくれて」
僕は剣に集中して素振りの練習を行った。そのあとはお風呂で汗を流して夕食。寝る時間まではこれも日課の魔法の修行。とは言っても自分の部屋で魔力を操るぐらいなんだけどね。
「う~ん。やっぱりどんなに魔力を集めて火の球を作ってもビー玉ぐらいの大きさにしかならないぞ。僕って才能無いのかな」
魔力を火の魔法、
とりあえず10個の火の球を頭の上に浮かべてグルグル回してみたり、球体を立方体にしてみたり、火の球を数字に変化させたりと、いつものように魔力を操作する練習をしている。
火の球ぐらいならもう少し出せるんだけど、部屋の中では10個が限界だね。たくさん出すとうっかり何かを燃やしそうだし。
魔力を操作するのはとても面白い。こうやって魔力を火の魔法として使うのも楽しいんだけど、魔力はそのまま魔力として使うこともできる。
例えば魔力そのものを放出して物にぶつけることもできるし、魔力で身体を強化することもできる。
剣の修行のときなんかは魔力を身体強化に使ってるんだけど、僕は全身の強化をできるほど魔力を出せないから、剣を持ってる右腕だけに魔力を集めたり、移動するときは足に魔力を集めたりして、部分的な強化をすることしかできない。魔力をたくさん出せればこんな苦労もいらないんだろうけどな。
アリウス家は代々続く火魔法の名門。当主である父上はこの国では誰もが知ってる火魔法の使い手。
そんな父上から魔法を教えてもらえる僕は国一番の先生から習ってるようなものなんだけど、父上が言われるようなイメージで火魔法を放っても大きな形にならないんだよね……。
父上からは「魔力の放出は訓練で大きくできるから継続が大事だぞ!」と飛びっきりの笑顔で言われているから小さい頃から魔力を操る訓練は続けてるんだ。何と言っても僕はアリウス家の長男だからさ。
――ただ、僕は父上と母上から生まれた子どもじゃない。
捨て子だった僕を父上と母上は実の子どもとして手続きをしてくれて、愛情たっぷりで本当の子どもとして育ててくれている。貴族だから実子としての手続きは大変だったらしいけど、父上が王様にまでお願いしてくれたそうだ。
初めて捨て子だったと明かされたときも、最初からそういうことが分かるように育てられていたから大きなショックは無かったな。
セバスやメイドのフランたちも全員知っていたし、実の子どもとか捨て子とか関係無いぐらい周りのみんなは優しくて、間違ったことをしたときは怒られて、本当に父上と母上の子どもであることはものすごく自然なことに感じているんだよね。
母上から森の中で僕を見つけたときの話を聞いたんだけど、母上は直感で私たちのもとにやってきてくれた赤ん坊なんだと思ったんだって。僕を屋敷に連れて帰ったあと自然と自分たちの子どもとして育てようと決まったらしい。
レアンデルという名前を考えてくれたのは母上なんだ。男の子が生まれたらこの名前を付けてあげたいって父上と決めていた名前なんだって。その話を聞いたときにすごく嬉しい気持ちになったのを覚えてるよ。
5歳下の妹のリルが生まれたときは父上と母上と3人ですごく喜んだし、幸せな気持ちになったな。
妹が生まれたことで更によく分かったんだけど、僕と妹に対する態度は全く変わることが無い。捨て子だったこととか、実の子とか関係なく自分たちの子どもと思っていてくれているのが分かる。
僕はそんな父上と母上が大好きだし、心から尊敬しているんだ。
僕がこっそりと心配してたのはリルが僕と血がつながっていないことを知ったときにどう思うんだろうってことだったんだ。だけどリルはあっけらかんと「レン兄さまは何があっても、私の兄さまなのです」と言ってくれたんだよね。
そんなできた妹だけど、僕と違うのは火の魔法がめちゃくちゃ上手だということ! これぞアリウス家の血筋って感じ。父上がたまに一緒に魔法を教えてくれるんだけど、6歳とは思えないレベルの火魔法を危なげもなく操ってるし、リルの火力はすでに僕よりもはるかにすごい。
でもリルは「レン兄さまはめちゃくちゃすごいのです」と言って敬ってくるんだよね。僕の何がすごいと言ってるのかよく分かんないけど、妹にすごいと思ってもらえるように剣も魔法も頑張らなきゃね。
僕は父上と母上、リルのことを考えながら、頭の上に浮かべていた火の球を消してベッドに入った。
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