第2話 魔法の授業

 魔法とは魔力を使って起こす現象全般のことである。

 魔力とは大気中のマナを取り込むことで身体の中に蓄えられる力である。

 魔力をたくさん蓄えられる者は大きな魔法や長時間にわたって魔法を使うことができる。大きな魔法を使うためには、多くの魔力を放出する技術も必要となる。


 魔力を水に例えると、大きなタンクに大きな蛇口が付いていれば、大量の水を長時間出すことができる。少量の水にすることで更に長時間出すこともできる。

 小さなタンクに小さな蛇口しかないのであれば、少量の水を短時間しか出すことができない。

 タンクと蛇口は後天的に大きくすることもできるが、タンクの方は先天的な要素が大きいと言われている。




 ウェスタール王国は火龍様の加護で守られた国である。全ての人間種に火の加護が与えられており、それを証明するものが火の紋章である。


 ウェスタール王国に生まれてくるものは左手の甲に火の紋章が付されている。火の紋章は魔力を火に変化させる力を高め、火や熱に対する耐性を上げる。そのためウェスタール国民の得意とする魔法は必然的に火の魔法である。

 治癒魔法や生活魔法などは普通に使うことができるが、違う属性である水や土などの魔法を使うのは困難である。覚えること自体はできるが消費する魔力に対して威力が全く伴わない。

 他の国では水や土などの紋章が付され、水の紋章ならば水魔法が得意魔法となる。紋章は属性魔法の力を大きく上げてくれる。




 現在、魔法の座学の授業中だ。僕は今までに習ったことを思い出しながら授業を聞いていた。


 ウェリス王立学園では高等部から魔法の授業が始まる。毎週火曜日の午後は魔法の座学と実技の授業だ。

 基本的な魔法の知識については一通り父上からも教わっているから、座学の授業で分からないことは無いしテストも問題は無い。問題があるのは実技だ。


「よし。今日の座学の授業はここまで。実技の授業をはじめるから、外の訓練場に移動するように」


 魔法の先生なのだが、ぱっと見はマッチョの武闘家にしか見えないメイソン先生が声をかけると生徒が一斉に訓練場へと移動する。


「よお、レアンデル。少しは魔法が上達したんだろうな? まさかまだおままごとレベルの魔法で笑わせてくれるつもりか?」


 僕に嘲笑の眼差しを向けながら話しかけてくるのは、同じクラスのジャイン・サイタールだ。

 同級生に向ける表情とは思えない顔と品の無い話し方を見ていると、とても貴族の振る舞いではないのだが、これでも侯爵家の長男であり、取り巻きも多いリーダー的な存在だ。


「僕も練習はしてるよ……」


 強く言い返してやりたいんだけど、そう返事するのが精一杯だった。


「へっ! 練習の成果を楽しみにしてるぜ!」


 そういうと数人の取り巻きとともに、訓練場へと向かっていった。




「みんな集まったな! それでは実技を始めるぞ。前回の授業と同じく火の魔法を的に当てる訓練だ。順番に的の前に並ぶように」


 実技の訓練自体は単純なもので、火の魔法を10m先にある的に当てるというものだ。的は火の耐性を付与された特別製だからとても丈夫に出来ている。1年生2クラスの生徒たちが6つある的の前にそれぞれ立って、火の魔法を使う。


「行け! 火球ファイアーボール!!」


 使う魔法は火魔法の中でも一番簡単と言われる火球ファイアーボールだ。魔力を火の球に変えて狙った的まで飛ばす。さっきの6人の火球ファイアーボールは大体野球で使うボールの大きさぐらい。スピードも的まで2秒ぐらいかな。一年生の平均的な魔法ってところ。


 6人ずつ訓練が進んでいくと9番目にジャインの順番がやってきた。


「見ててくれ! 飛べ! 火球ファイアーボール!!」


 誰に見て欲しいんだか分からない掛け声を出しているが、魔法の前にアーシェを見つめてたから、まあそういうことだろう。というかジャインがアーシェを好きなことはクラス全員が知っているんだけどさ。


「「「おお~!!」」」


 一年生全員の驚く声。それはジャインの火球ファイアーボールに向けられたものだ。

 いや本当にすごかった! 大きさがサッカーボールぐらいはあったぞ。それに的まで1秒もかからなかったんじゃないか? 

 的が大きいわけじゃないから、的に当てるためにはみんな少しゆっくり目に飛ばすんだけど、ジャインはそんなことお構いなしと言わんばかりにすごいスピードで魔法を飛ばした。火球ファイアーボールの大きさに自信があったからだろうな。

 よく見ると的が少し焦げている。的の火の耐性を超える威力もあったということだ。


「「「すごいです! ジャインさま!」」」


 取り巻きたちにほめ殺しにされて喜んでるジャイン。ジャインの視線の先にはアーシェがいるが、アーシェは全く興味が無いみたいだ。


「それでは、最後の6人並ぶように」


 先生から声がかかると、いよいよ僕の順番だ。ああ、ダメだ。めちゃくちゃ緊張してきた。


「レン、リラックスして!」


 アーシェから声が飛んできた。いかん、ジャインたちから殺意のこもった目が向けられている。


「レアンデル! 面白いもの見せてくれるんだろうな!! 楽しみにしてるぜ!」


 ジャインからは冷やかす声も飛んできた。


「それでは、打て!」


 先生の合図で僕たちも一斉に的を狙う。




火球ファイアーボール!!」


 僕は右手に魔力を込めて的を狙い、火の球を放出した。


 僕の右手から放たれる火球ファイアーボール。見事に的に命中。


「フハハハハハ! 何だあれは!? 今、火球ファイアーボールが飛んだのか? ハエでも飛んだんじゃないのか?」


 僕の右手から放たれた火球ファイアーボールはビー玉ぐらいの大きさで、的に届くのに3秒ぐらいかかった。


「火魔法の名門アリウス家の息子が火魔法が下手なんて笑うしかないぜ」


「ジャインくん、品が無い発言は止めなさい!」


「みんなレアンデルの紋章を見てみろよ。小っちゃすぎて見えないだろ? あれで火の紋章って言えるのかよ」


 アーシェがかばってくれているけど、僕は笑われても当然だと思った。確かに虫が飛んでいるかのような魔法だ。

 それにみんなの左手の甲には手のサイズに合った火の紋章がしっかりと浮き出ているけど、僕の火の紋章は直径1cmぐらいしかない。


 どれだけ練習しても火の球を大きくすることができないんだよな。いや、昔はビー玉より小さかったから成長はしてるのかも知れないけど、成長してビー玉なんだよ。ピンポン玉すらほど遠いよ。


 このあとも実技の授業は続いたんだけど、僕は落ち込んだ気持ちを回復できずに、魔法の授業のあとはすぐに帰ったのだった。



<人物紹介>


ジャイン・サイタール

侯爵家の長男。アーシェスに好意を寄せており、アーシェスと仲がよいレアンデルが気に入らない。魔法の実力は優秀であるがそのせいで傲慢な態度を見せる。


ジャインの取り巻き

伯爵家、子爵家、男爵家の子息たち。有力貴族であるサイタール侯爵家とお近づきになるためジャインを持ち上げる集団。


メイソン先生

見た目はマッチョな武闘家に見える魔法の先生。魔法の実力は確かで、生徒への指導力も高い。



この世界の暦は1月から12月までの12か月で1年間。

1日は24時間、1週間は月曜日から日曜日までの7日間、1か月は28日間。

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