第4話 ツインフェアリー
リングの脇に椅子が置いてある。由梨乃はそこに李を座らせた。そして後ろから、ヘッドフォンをつけた。
「知ってると思うけど、このヘッドフォンが、フェアリーとの連動装置になっているから」
耳元で囁かれる。フェアリーゲットオーディションの時に連動装置は使ったことがあるため、由梨乃の言う通り、ヘッドフォンのことは知っていた。
リイリーとメイリーは自然とリングの上へ降り立つ。
「念じるというのは、あながち間違っていないわ。ただ、どう念じるかが問題になるの。もっと具体的に動きを想像することが必要」
リイリーとメイリーはまだ動かない。
「右腕を曲げるところを想像してみて」
由梨乃に言われた通りに、想像してみる。
リイリーとメイリーの右腕が曲がった。
「あ――、出来た!」
思わず叫ぶ。
「その調子よ。李ちゃんのフェアリーはツインフェアリーだから、各々違う動きも出来る。今度はリイリーが右腕、メイリーが左腕を曲げるように想像してみて」
由梨乃に言われた通りに、リイリーは右腕、メイリーは左腕、と想像してみる。
思った通りの動きを、リイリーとメイリーはしてくれた。
「凄い凄い!」
李がはしゃぐ。
由梨乃は微笑んだ。
「フェアリーフェスティバルでは、もっと活発な動きをするから、練習しておいた方が良いと思う」
「はい」
李は頷いた。
フェアリーはリングの上に立って、連動装置を付けられている間は喋らないが、リングの外へ出ると、自由気ままに動き出す。
李がフェアリーをしばらく動かした後、連動装置を外したら、リイリーとメイリーがリングの外へ出てきた。
『いい運動になったー』
晴れやかな表情をしているのは、リイリーで、メイリーは対称的に怒っている。
『かったるい運動させるんじゃないよ。あー、だるい』
「メイリー、教えてくれた由梨乃先輩に失礼だよ」
李が咎めるが、由梨乃は気にした様子はない。
「フェアリーゲットオーディションの決勝戦、私も見ていたけれど、凄かったわね」
「いえ、私はツインフェアリーだから、有利だっただけで。由梨乃先輩こそ、1つのフェアリーでオーディションを勝ち上がってきたんだから、凄いですよ」
ツインフェアリーの場合、戦う時はどちらかのフェアリーを選択しなければならない。
フェアリーはもともとメモ機能やメール機能などを備えている携帯のような役割だったが、フェアリーバトルが行われるようになってからフェアリーに属性が追加された。属性は色々あり、リイリーは光属性、メイリーは毒属性である。
そのため、相手によって李は有利な属性のフェアリーを選ぶことが出来る。これだけで、ツインフェアリーがいかに特別で、普通の人よりはるかに有利かが分かる。
フェアリーゲットオーディション決勝戦―。
相手のフェアリーが高速で走ってきて、パンチを繰り出す。それをかわすと、振り向きざま、リイリーの手から光の線が出て、相手の手を焼き尽くした。相手のフェアリーが崩れ落ちる。
『優勝者、入野李!』
短い時間の中で、訳も分からず優勝した李であった。
「由梨乃先輩はフェアリーゲットオーディションの時、決勝戦どうでしたか?」
李は参考までに聞いてみた。
「私は李ちゃんのように鮮やかに勝てなかったわよ。紙一重で勝って、生徒会の許しが出て、漸く入学出来た感じ」
由梨乃は続けた。
「一般人の入学は久しぶりだったから、私のときも反発がすごかったの。李ちゃんはあれからクラスメイトに嫌なことされていない?」
「はい、一応大丈夫です。」
李が答えると、由梨乃は軽く頷いた。
「そう。だけど、気を付けてね」
李は由梨乃の言葉に、なんとなく不安感を覚えた。
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