自宅のタワマンが異世界に繋がった。

海猫ほたる

自宅のタワマンが異世界に繋がった。

 予想通りの反応だったけど、テスト用紙を見せると母の顔がみるみる赤くなった。


「なんでこんな点数なの。これじゃT大どころかK大もW大も行けないわよ。なにがあったのかちゃんと話しなさい」


「テスト会場に行く途中に産気づいた女性がいたんだ。救急車を呼んでいたら会場に着くのが遅れて、事情を話したら途中から入れたけど時間が足りなくて……」


 僕は咄嗟に思いついた、白線流しのドラマで見たような展開のいいわけを無理やり並べた。


「呆れて物も言えないわ……今日から1ヶ月はテレビもゲームも禁止。友達とも遊んではいけません」


 ペットのハンバーグ(ミニチュアダックス2歳)を躾ける時と同じテンションで言い放つ母に苛立ちを覚えた僕は、何も言わずに部屋を飛び出た。


 はあ?やってられるか。

 何かを叫んでいる母を無視して、そのまま靴を履き、玄関を出た。


 僕の家はマンションの50階にある。所謂タワマンってやつだ。

 父と母が稼いだ金で買ったんだ。

 父と母はたくさん努力してお金持ちになった。

 だから僕にも同じように英才教育とやらをしたいらしい。


 だけど、僕は努力なんて面倒な事はしたくない。

 さあ、母が追って来る前にさっさと地上に降りよう。


 今日はそのまま友人の家に泊めてもらうんだ。

 母は僕がいなくなって荒れるだろうけど、いいんだ。

 一応、フロントのコンシェルジュにだけ行き先を伝えておこうかな。


 エレベータはちょうどこの階に止まっていた。

 僕は急いで乗り込むと、LV1と書かれたボタンを押す。


 LV1とは、一階の事だ。因みに今いる50階はLV50と書かれている。

 設計した人がオシャレに見せるために、わざわざ階じゃなくてLVと書いたんだろう。

 エレベーターはものすごい速さであっという間に降りて行った。


 LV1を示すランプが灯り、ドアが開く。


 そして1階に到着した……はずだった。


 あれ、おかしいな。

 1階はマンションのフロントのはずなのに、ここはどう見ても異世界の冒険者ギルドじゃないか。


「ようこそレベル1の世界へ。新しい冒険者さんですね」


 コンシェルジュの代わりに、ギルドのお姉さん風の人が僕に向かってにっこりと微笑む。


「いや、僕は異世界じゃなく1階にいきたいんだけど……」


「ええ、ここ1階ですよ。冒険者さん、あなたは神ポポニュラカイドゥルによって選ばれし者なのです。今、タワーオブインフェルノのゲートを通ってこのショクェイタイアバババランドに辿り着いたばかりで何も分からないかもしれませんが、安心してください。魔王ジュゴキルヒュンキュダレストを倒せるようになるまで、ちゃんと私たちがサポートしますね」


 な……なんだこれは……僕は夢でも見ているのか……


だが僕はすぐ、この世界が夢でも幻でもなく、本当にあるのだと知った。


 全50階建ての超巨大な塔をクリアするまで、僕は元の世界に戻ることは出来ないらしい。


 異世界ショクェイタイアバババランドに来て一か月が過ぎた。


 僕はいまだに、レベル1のスライムにすら手こずっている。


 母の元に戻れるのは、いつになるのだろうか。


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自宅のタワマンが異世界に繋がった。 海猫ほたる @ykohyama

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