人か魔物か

まくらのおとも

第1話


「団長ー!前方に島が見えてきましたー!」


 数多の国が乱立し、戦争による併合や滅亡を繰り返していた時代から、戦争から外交による戦いへと代わり、ある程度国々に落ち着きが見え始めた頃、他国への侵略による領土拡大が困難だと判断した者達は、まだ見ぬ海の向こうへと視線を向けた。


 造船技術が発展し、海中に住む強力な魔物達への対抗策が研究され、遂に海を渡る術を得た国々は、新たな大陸を求め我先にと調査団の派遣を始めた。


「ふむふむ……。確かに島ですねぇ。我々の求める大陸では無さそうですが、このまま手ぶらで帰るのもなんですし、少し寄っていきましょうかねぇ……」


 双眼鏡を覗き込み、前方に見える島を眺めながらそう呟いたのは、シーガルド王国から派遣されたこの調査団の団長を務めるミカルド・フォン・エスエリア。


 名前から分かる通り貴族ではあるのだが、普段から研究者として生活している彼は、未知への探究心に突き動かされ、この危険な調査に自ら志願した変わり者である。


 昔から一度言い出したら聞かない性格なのをよく知っている両親は、溜息を漏らしながらミカルドの志願に許可を出した。


 長男が既に次期当主として恥ずかしくないほど立派に成長している為、三男であるリカルドにもしもの事があっても問題がないというのもすんなり許可が降りた理由であろう。


 そんなリカルドだが、意気揚々と海へと乗り出したものの、この3ヶ月ほど、何の成果も無いまま海を漂う事となっていた。


 既に何度も調査団が派遣されている為、殆どが既知のものであった。


 船に積んできた食料などの残量から、そろそろ帰路に着かなければならないと考え始めた時、先程の島を見つけたのだった。


「ふむふむ……どうやらあの島はかなり魔素の濃度が高いようですねぇ……。」


 島から少し離れた海上止めた船から、双眼鏡で島の内部を見ていたリカルドは、右手に持つ計測器をチラリと見ながらそう呟いた。


「団長ー!あっちの海岸にゴブリンが居ますぜー!あの辺りは比較的安全なのかも知れねー!」


 リカルドと同じく双眼鏡で島を観察していた乗組員の1人がそう声を上げた。

 リカルドがその乗組員の指差した方を見ると、緑の肌に尖った耳をした人間子供ほどの背丈の生物が歩いているのが見えた。


 ゴブリンと呼ばれるその魔物は、リカルド達の住む大陸でもよく見られる魔物である。

 ゴブリンはかなり弱い部類に入る魔物であり、強い魔物の居ない場所で巣を作り生活するという生態をしている。

 その為、ゴブリンが歩いている辺りには強い魔物はいないと判断したのだ。


「それでは、あの辺りから上陸しましょうかねぇ。……全員上陸の準備を!」


 リカルドの指示に従い、船を先程ゴブリンが見えた辺りへと移動させ、全員が上陸の準備を始めた。


 その様子を見ながら、右手に持つ計測器に目を向けたリカルドは、胸の内に沸き起こる嫌な予感を必死に押さえつけるのであった。

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