第39話・魔導士の目的

「め、メイ?」

その名前を聞いてエヴァルスは目を丸くした。

赤い月を受け継ぐ魔導士・メイ。

仲間の誰よりも強大な魔力を誇り、攻撃力の要とも伝わる存在が目の前にいる。

唐突にメイが現れたから驚いたのではない。

エヴァルスにとって自分より若い者がその強い力を受け継いでいるとは思わなかったからだ。

「どうしたの?私の顔に何か付いてる?」

メイは差し出した手を取らないエヴァルスに小首をかしげた。

「あ、あぁ。ごめんなさい。ボクはエヴァルス、そして」

「タンクだ」

メイは2人の手を交互に取った。

「知ってるわ。だから助けに来たのだから」

そっけない態度にタンクは眉をひそめたが、直前に助けられた手前、その不満を口に出すことはなかった。

「魔法放ったらお腹減っちゃった。ご飯、貰える?」

思った以上にメイは厚かましかった。


本日の追加夜食。

大トカゲの串焼き。

「普段からこんな粗雑な物食べてるの?」

メイは自分で持参している小瓶を焼けた肉に振った。

「それは?」

「香辛料よ。どこでも手に入って、保存の利くものはいろいろ試したの」

メイは適度に赤い粉を振ったトカゲにかぶりついた。

エヴァルスは納得したように自分も肉にかぶりつく。

タンクがトカゲを取りに行っている間、それぞれの人となりを情報交換していた。

紋章を持っている時点でこれから一緒に旅を進める仲間になることがわかっていたからだ。

メイは14歳。

つまり、生まれた時から手には紋章があり、そのための準備を周囲からされていたのはエヴァルスたちと一緒だった。

「でも、その魔力ヤバいな」

タンクはうぱに尻尾の肉を与えながら先ほどの魔法の威力に感心しているようだった。

「あれくらい。集落のおばさまたちはみんなできるわよ」

タンクの誉め言葉に、メイは目を丸くした。

むしろ2人のほうが目を丸くしたいところであった。

なるほど、魔女の集落と噂が広まるだけはあると頷いた。

「さっきは誰を追っていたの?」

エヴァルスは食事もそこそこにメイに尋ねた。

助けに来た、そう言っていたもののメイの行動は明らかに先ほどのツタの主を追っていたのは明白であった。

「……集落の面汚し。私の姉」

メイはそれだけ言うと、トカゲの骨を火に放り込んだ。

「寝るね」

それだけ言うと座っていた倒木の上で寝転がってしまう。

小さな身体だからこそできる芸当だった。

「本当に寝たな」

「ボクらより旅に慣れてるのかもね」

初対面の人間の前で堂々と眠る度胸に舌を巻きながら2人は火の番をする。

「どう思う?」

タンクはぽつりと呟いた。

どう思う?に対して思い当たるフシがいくつもあって黙っていると、タンクは聞きたいことの補助を入れる。

「コイツ、本当に魔導士だと思うか?」

「紋章があるんだから」

エヴァルスはちらりとメイを見て答えた。

「まぁ、そうだけど。あの魔法の威力見たら確かに」

タンクは残ったトカゲ肉を食んでいる。

それでも陰鬱とした表情を浮かべているのはメイの年齢だろう。

14歳。

エヴァルスよりも若い歳で死出の旅とも言える魔王討伐に駆り出されていることを考えるとタンクには思うところがあるのだろう。

誰一人として帰ってこない、旅路。

そして先ほど言っていた言葉も気にかかっているようだ。

「自分の姉を悪く言うのってどんな気持ちなんだろうな」

ツタを襲わせたのは自分の姉で、集落の面汚しと言っていた。

「なんの気持ちも無いわよ」

メイが向くりとあくびをしながら起き上がった。

「起きてたのか」

「起きたの。聞きたいことがあるなら本人に聞いて」

メイは目を擦った。

その様は先ほど雷を降らせた様子とは違い、年齢よりも幼く見えた。

「それなら。オレら助けに来たってよりあのツタ使い追って来たんじゃないのか」

タンクは遠慮なく核心から尋ねた。

少し引いているエヴァルスをよそにメイは躊躇なく口を開く。

「そうね。たまたま襲ってた相手があなたたちだった」

「正直にどうも。で?紋章の魔導士さんとしてはオレらの旅についてくるつもりはあるわけ?」

タンクは遠慮なく言葉を続ける。

その質問はエヴァルスの予想外だった。

「タンク?どういうこと?」

「勇者さまと違って、防人の方はスれてるのね」

質問に対してメイは口角を上げた。

「コイツは人が良すぎてね。こういうのはオレの担当」

何やらバカにされている気配だけ感じたエヴァルスは頬を膨らませたが、言葉は挟まなかった。

「質問に答えるわね。ついていくけど私の目的を優先させてもらう」

メイは何でもない様子で話す。

「目的?まぁ、聞くまでもないか」

「そう。私の目的は姉を殺すこと」

エヴァルスは目を丸くする。

「実のお姉さんでしょ?」

メイはちらりとエヴァルスを見ると、再び視線をタンクに戻す。

「この子、大丈夫?」

「オレからすれば、お前の方が大丈夫?だけどな」

すっかり会話から置いていかれたエヴァルスはうぱを抱えている。

「あなたたちについていくのは姉が魔王に協力している噂があるから。あなたたちと旅をしたら姉と会う可能性もあがるし」

「で?お姉さん殺したら旅からいち抜けかい?」

タンクは茶化すような口調で言うが目は笑っていない。

メイはその言葉を鼻で笑う。

「それしていいならするけど。どうせこの紋章が許さないだろうし」

メイは赤く光る紋章をかざす。

「コレはね、呪いなの」

メイは紋章を眺めながら口から溢した。

タンクは膝をパンっと打った。

「よし。ちゃんと旅を続けてくれるならオレは文句はない。エヴァ、お前は?」

「え?ボク?」

急に話を振られ目を丸くする。

「仲間が増えてくれるのはうれしいよ」

その分、生き残る可能性があがるのだから。

そんな思いは口に出せなかった。

「ありがと。本当に寝ていい?聞きたいことあったらこれからの旅で答えるから」

「最後にひとついい?ボクたちもメイくらいに魔法使えるようになる?」

エヴァルスの言葉にメイは首を傾ける。

「……できないの?」

「キミほどの力は」

メイは露骨にため息を吐いた。

「まず集落に行こ。そこで調べる」

今度こそ、メイは木の上で寝てしまうのだった。

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