第37話・合わぬ数

明くる日、2人が地下室に降りると幼女の姿は見えなかった。

どうやらすっかりヘソを曲げてしまったらしく、柱の中に引きこもるつもりらしい。

「うるさいのが居なくて、調べものに集中できるな。エヴァ、こいつのこともう少し調べてみよう」

タンクの提案にエヴァルスは頷いた。

紋章と守護の関係はおぼろげに本には記されていた。

昨日の幼女との話で守護の話を聞いて本を読み返してみると、関係性が浮き彫りになってきた。

どうやら、紋章にはそれぞれ対応した守護が居るらしい。

そして、うぱ……ここではアビオスと言ったほうがいいのだろうか。

このアビオスこそ、エヴァルスの紋章「青いワシ」に対応する守護であることが分かったのだ。

「コイツが守護ねぇ」

タンクは疑いの目を向けるが、当のうぱはブイサインを示してご機嫌である。

「ボクはあれだけ強いならなんか納得」

このうぱと初めて会った時のハチとの攻防。

あの時のブレスは並外れたものではなかった。

「その理由がハチミツ勝手に取って追い回されてたって思うと情けないけどな」

「うっぱ!」

タンクの言葉にうぱは顔を赤く染めて頭にかじりついた。

「なんか、慣れた……げ」

うぱが頭に乗りながら本を読んでいるタンクが奇声をあげた。

「どうしたの?」

「オレ、もう守護に会ってる」

タンクはわなわなと本を振るわせながら頭の上を睨みつけた。

「ウソでしょ?どこで?」

エヴァルスはタンクに食って掛かる。

タンクは読んでいた本をひっくり返す。

その本にはそれぞれの紋章に対応した守護が書かれていた。

青いワシはアビオス。

そしてタンクの持つ紋章「黄色い種」に対応する守護の名前にイワイと書かれていた。

「うっそ」

エヴァルスは、ハマの村で出会ったあの人物がタンクの守護である事実はなかなか受け入れがたかった。

「あの野郎、そんなこと一言も言ってなかったじゃねぇか」

タンクは拳を握り机を叩いた。

「それよりもタンク、こっち!」

エヴァルスが指さした文字。

それももちろん今の時代の文字ではないでタンクは少し間を置いて文字を読み解いた。

「ウ、ェー……ル。ウェール!?アイツもかよ!」

タンクは目を見開いて本を眼前まで近づける。

「そういえば『守護遣い』って言ってたものね」

エヴァルスは彼女の発した言葉を思い出し、頷く。

考えたら2人に映像を見せた力を考えたらその言葉が無くても納得できるものだった。

「マジかよ、あんな性格悪い奴の力借りなきゃいけねぇのか」

タンクは本を机に叩きつける。

「ちょっと、物は大切にしなさい。他の人も読むのよ」

タンクの態度に、幼女が柱から顔だけ出して文句を言った。

「居たのか」

「私はどこにもいけないもの。それよりもアンタ、今後本を雑に扱うなら神父に言ってこの部屋に入れないわよ」

幼女は再び柱に戻ろうとする。

「ちょっと待って。少し聞いてもいい?」

エヴァルスは柱に戻ろうとした幼女を引き留める。

「なぁに?私も忙しいんだけど」

「この本に書いてある守護、本当に間違いないの?」

エヴァルスが尋ねると幼女が目を見て感心したように頷く。

「さすがに気付いた?気付いちゃった?」

「なんか嬉しそうだな」

タンクの入れた茶々には拳で対応している。

「いってぇな!」

「いちいちレディに文句付けるからでしょ」

ウェールの件といい、この幼女といい、タンクは守護絡みの人物と相性が悪いようだ。

「そっちこそいちいち訳の分からない言葉使いやがって」

「タンク!今はボクが聞くことあるの!」

揉めている2人の口論をエヴァルスが遮る。

2人は取っ組み合い寸前で近付くのを辞めた。

「……聞きたいことって?」

幼女は何かを期待するように微笑みながらエヴァルスに向き合った。

「この本ボクたちに味方する守護が書かれてるんですよね」

「うん」

「紋章の数だけ守護がいる、間違いないですか?」

「うんうん」

肯定してくる幼女。

エヴァルスは唾を飲んで、尋ねた。

「なら、なんで5人の守護の名前が書かれているんですか」

エヴァルスの言葉に、口元を緩める幼女。

「イグザクトリー。アンタたちはいままで4人で魔王の城に行こうとしていた。足らないの。5人じゃないと」

「……でも、伝承では4人って」

タンクが溢した言葉に幼女は頷く。

「みんな足らないの知ってたよ。でも、見つからなかった。何代重ねても、ね」

その言葉を残して幼女は柱に戻っていく。

「ちょっと」

「5人目が居ないと、魔王に勝てない。必ず見つけなさい。でないと……また運命を変えられない」

そして柱に消えていった。

「おい。おい!……反応ねぇな」

タンクが柱を叩くが、それきり幼女が出てくることはなかった。

「……なんの手掛かりも無しに5人目を探す……?」

エヴァルスは再び本に目を通す。

伝承に無い、5人目の仲間。

もちろんこの部屋の書物には、少しの手掛かりもなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る