いいわけを聞かせて

月井 忠

第1話

 彼はいつも面白い言い訳を口にした。


 デートに遅刻してきたときは、ごめんの前に

「キャトルミューティレーションって知ってる?」

 と聞いた。


 ふてくされながら知らないと答えると

「宇宙人に連れ去られて、宇宙船でいろんなことされるんだけど」

 と言って、自分の手首を見せた。


 絆創膏が貼ってあった。


 彼が言うには宇宙人がそこにチップを埋め込んで、絆創膏を貼ったらしい。

 宇宙人ってコンビニで絆創膏を買うの?


 ある時、またしてもデートに遅れると、彼はいつもの言い訳を口にせず、ただごめんと繰り返した。


 おかしな雰囲気を感じながらも、帰る時間となる。


 彼は私にプロポーズをしてきた。


 計画のことで頭が一杯だったから言い訳まで頭が回らなかったみたい。


 私達は結婚した。


 家事は分担すると決めていたのに、彼は徐々にやらなくなる。

「知ってる? 料理するとテストステロンの分泌が下がるんだって」


 一応調べたけど、そんな情報はどこにもなかった。


 ムカついた。


 子供の世話をすると言っていたのに、彼は土日に友達と遊ぶことが増えた。

「知ってる? 父親が楽しんでる方が子供にとっては成長につながるんだって」


 私は彼の言い訳を笑えなくなった。


 私達夫婦にとって、この頃が一番危なかった。

 でも、子供が大きくなるにつれ、話し合いを持つ時間も増えた。


「泣かないんじゃなかったの?」

 娘の結婚式で号泣する彼に聞く。


「知ってるか? 泣き虫小僧って妖怪。さっき式場の入り口で会ったんだよ。アイツを見ると勝手に涙が出てくるらしい」

 私は彼の言い訳で、久々に笑った。


 泣いてもいたけど。


「プロポーズするとき一生幸せにするって言ってなかった?」

 私は彼の墓の前でつぶやく。


「一生ってことは、私より先に死なないってことだと思ってたけど?」

 彼が亡くなって、もうずいぶん経つ。


 彼だったら、どんな言い訳を口にするだろう。


 私はそんなことを考えながら日々を生きている。

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