いいわけないでしょ!

橋本洋一

物事の終わり

「浮気した謝罪に『自分を登場させた小説を書く』だなんて。まったく面白いったらありゃしないね、タカシ氏」

「自分の身になってみろ。大変だったんだぞこれ」

「理由にならないけどね。なになに、『翻訳本屋の図書子さん』『めいぐるる!!』『ぐちゃぐちゃ愚者』『深夜の散歩で起きた出来事あるいは……』『筋肉貯金』そして『アンラッキー7の怪人』か。テーマに沿った作品だけれど、いまいち苦しいものもあるんじゃないか?」

「けっ、まあな。深夜の散歩云々はつらかったよ。どんなテーマだって話」

「そうだね。オチも微妙だったしね」

「なんとも汗顔の至りだけれど。ま、これで浮気したいいわけも立つってもんだ」

「だから浮気は良くないよ。昨今の情勢的にもさ」

「そもそも、浮気じゃねえんだ」

「どういうことかい?」

「一緒にホテルに行ったけど、ラウンジで相談されただけなんだ。別に悪くないだろう?」

「ああ、それを君のヤンデレ彼女が怒ったんだな」

「なんつーか、ヤンデレっつってもヤンキーデレだけどな。いいわけもできずにぼっこぼこにされちまった」

「ちなみに彼女さんは伝説って呼ばれたほどだからね。仕方ないね」

「なんだかんだ惚れた弱みってやつだよ。あんな暴力的な女でも好きになっちまったら一直線なんだ」

「だけどさ。よくまあ酔狂なことするよ。人のために小説を書くって」

「てめえも誰かのために小説を書けばいい」

「いやだよ。僕は作者じゃなくて読者なんだから」

「立派なことで。あ、そうそう。もう一本書かねえといけないんだ」

「大変だねえ。そのテーマは?」

「ふん。……『いいわけ』だ」

「どういうこと? 本当にテーマはいいわけなの?」

「ナンセンスだとは思うぜ。だからてめえとの会話を小説化するぜ」

「全然面白くないと思うけど。てか『ゲーム』しているの読者の人たちに分かるのかい?」

「ああ。全然分からねえと思うぜ。いや、鋭い人は気づくか」

「可能性は低いよ。このゲーム、ルールはあるけど、気づけないよ」

「よーし、じゃあ賭けでもするか?」

「賭け事は良くないよ」

「許せ。気づくかどうかだ。金は賭けねえ」

「えーと、君が負けたらどうする?」

「連載する。新しい作品を」

「わあお。凄いじゃない。どんな題名なのかしら」

「『龍馬と梅太郎 ~二人で一人の坂本龍馬~だ」

「得意の歴史ってわけだね」

「何とでも言え。そんじゃ、そろそろ行くわ。彼女も待っているし」

「そうだね。さようならタカシ氏」

「セリヌンティウス、進め前へ」

「走れ、メロス」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

いいわけないでしょ! 橋本洋一 @hashimotoyoichi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ