私の彼氏は【いいわけ】したい。
タヌキング
彼氏の【いいわけ】
「僕って、つまらない人間だよね。」
高校の帰り道、私の隣を歩いている彼氏がそんなことを言い始めた。
「そんなことないよ。優しくって一緒に居て楽しいよ♪」
「いや、お世辞なんていいよ。僕は嘘の一つもつけない、底の浅いつまらない人間なんだ。もう自分で分かってるんだよ。」
うーん、私は本当に優しくてメチャクチャ良い彼氏って思ってるのに、彼はたまに被害妄想が激しいのが玉にキズである。
「そんなに自虐的にならないでよ。」
「いや、君に相応しい男になるために、僕はユーモアを身に付けないと駄目なんだよ。そこで相談なんだけど、明日のデート、僕は約束の時間に少し遅れて行っても大丈夫かな?」
「えっ?」
突然何を言い出したのだろう?
確かに明日は水族館デートの予定だが、遅れてくるとは一体どういう了見だろうか?
「明日、遅れてきた僕は凄い【いいわけ】を言ってのける。それを君に聞いてほしいんだ。」
なんだその大喜利みたいな提案は?そんな提案してくる時点で、ちょっと面白いんだけど。
「分かったわ♪楽しみにしてる♪」
「ありがとう、必ず抱腹絶倒、腹がよじれるぐらいの【いいわけ】を考えてくるから、笑う準備をしておいてね。」
うーん、ちょいとハードル上げすぎ♪
〜次の日〜
待ち合わせの某有名な犬の銅像の前に来て、彼を待つ私。どうせ彼も遅れてくるのだから、私も遅れてくれば良いかな?とも思ったが、それだと設定に齟齬が生じそうだったので、ちゃんと時間丁度に来た。
普通、彼氏が待ち合わせに遅れていたらイライラするところなんだろうけど、彼がどんな【いいわけ】をするのか楽しみでワクワクしている自分がいる。
待ち合わせ時間から15分後、彼が息を切らして走ってきた、
「はぁ、はぁ・・・お待たせ。」
本当に息を切らして走って来て、遅れたシチュエーションを出すなんて、リアリティ重視だなぁ。
さて演技しないと。
「もう、何で遅れたの!!理由を話してよ!!」
我ながら良い怒りっぷりである。これなら女優になれるかもね。
肝心の私の彼氏は何処か言い辛そうな顔をして、遅れた【いいわけ】を話し始めた。
「じ、実は来る途中に宇宙人の円盤に攫われそうになってね。そんな僕を童話の【大きなかぶ】に出てきそうな人たちが『うんとこしょ、どっこいしょ』と掛け声ともに引っ張って助けてくれたんだ。そんなことしてたら遅れちゃった。本当にごめんね。」
・・・宇宙人か、それも【大きなかぶ】までプラスしてくるとは・・・創意工夫は見られるけど、ストーリー的に何か情報が多くてゴチャゴチャしてるような気がする。
「ちょ、ちょっとその【いいわけ】は奇抜過ぎるかな・・・あはは。」
苦笑いの私、もっといいリアクションをするべきだったんだろうけど、私って少し正直過ぎるのかも。
彼氏は私の反応にガッカリしたのか、はぁとため息をついた。
「僕もそう思う、本当に事実は小説より奇なりだね。」
「そうよねぇ・・・ん?今なんて言ったの?」
事実は小説より奇なりなら、まるで本当にあったことみたいじゃない。
「うん、だからさ。全て現実に起きたことなんだ。もうそろそろ皆来ると思うよ。」
言っている意味はよく分からなかったが、本当に少し待つと、ある一団がコチラに向けて横並びに歩いてきた。
右からおじいさん、おばあさん、男の人、女の人、男の子、女の子、犬、猫、老若男女、種族を超えた一団である。
まさかと思い、スマホで最近のニュースを調べると【UFO出現!!キャトられ少年、奇跡の救出劇!!】という見出しの記事が出てきて、記事の写真で、UFOと宙に浮く彼氏、そしてその彼氏の手を引っ張るあの一団の姿を見ることが出来た。
「いや、本当のことかい。」
思わずツッコんでしまったが、あまりに話がぶっ飛んでて頭もパニックなのです。ご容赦いただきたい。
「重ね重ねごめんなんだけど、これから助けられた打ち上げで焼肉に行くことになってさ、悪いんだけど水族館デートは中止して、今からあの人達と焼肉に行かない?」
深々と頭を下げて私にお願いしてくる彼氏。水族館は楽しみにしてたけど、こんなショッキングな出来事の後に魚見て「キレイ♪」なんて言ってられないや。
「分かった、皆で焼肉食べよう♪」
「あ、ありがとう。」
このあと彼が考えてきた【いいわけ】を一応聞いてみたが、シンプルに寝坊して遅れたという、何の捻りもない【いいわけ】だったので、私は彼氏が本当にキャトられそうになって良かったと思いましたとさ。
おしまい♪
私の彼氏は【いいわけ】したい。 タヌキング @kibamusi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます