異世界旅行者の転生記

さなみ

異世界中を旅してみたい!



その日一人の女性が人生を終えた。


平凡だったけど孫の顔も見れたし思い残すこともない。




若くに子供を産んで、重圧に耐えきれなかった夫が早くに逃げ出したので苦労も多かった。


でも、どんな時でも子供達と協力して乗り切った。


ずっと誰かの為に生きてきたが、後悔はしていない。




誰かに見守られて人生を終えることができる。


50代で少し早かったけれど私はとても幸せだった。




ありがとう。




ただ・・もし、次に生まれ変われるなら・・


少しは自由に生きてみたい・・




時間と若さとはとても贅沢なことだ・・


気づいた時にはあっという間に過ぎている・・




もしも・・・




――――――――――――






一方その頃。日本の神様の処へ研修にきていた異世界の若い一人の神様がその様子を見ていた。




「ねね、この女性はこの後どうなるんですか?」


異世界の若い神様は日本の神様に視線を向ける。




「そうですね、若い頃は少し間違って粗いところもあったようですが、子供を産んだことで最後まで自分の家族を守るために力を尽くして生き抜いたので、この世界での修行は終わりです。次の成熟された世界へ転生を果たしていくでしょう。」


そう言って日本の神様は別れを惜しみながら涙する子供や孫たちの様子を見守っている。




「うーん、でも最後にもう少し自由にって願っていたみたいだけど・・。そうだ!これも何かの縁!よければうちの世界へ転生させてみても良い??」


異世界の若い神様は、神様というだけに心がとても純粋に満ちているので、さも良いことを思いついたとばかりに日本の神様にキラキラした目を向ける。




「縁・・まぁ・・確かにその様に願っていたようですが、勝手に輪廻転生をいじくることはあまり良くないですね、それに貴方の世界はまだ階級制度もあるし魔物や魔族もいるじゃないですか。この女性は根性はあるようですが平和や博愛をきちんと学んでいますので、流石に生き辛いと思いますよ?」


日本の神様はまだまだ神様歴の若いでも純粋である異世界の神様にやんわりとお断りをしているのだが・・。




「確かに・・でも僕、さっきこの女性の願い聞いちゃったし・・(ウルウル)じゃあそこはほら!最近この日本でも流行っている異世界転移でいいんじゃない?チート?ってやつもつけるし、早かろうと遅かろうともしも死んでしまったら僕が責任を持ってまた貴女様の所へ還しにいくから輪廻転生も汚さないよ??」


勢いが若い異世界の神様はまだ青い所があるのだろう。本来では許されないことではあるが、縁を大切にする日本の神様の元へ研修に来たのがこの女性の縁だった。


結局ある程度の能力と記憶を引き継ぐこと、そして必ず人生を終えた後には正しい輪廻転生の輪へ戻すことを条件に日本の神様は承諾していたのだ。






「はぁ・・私もまだまだ甘いですね・・。ですが、勇者召喚や異世界転生を勝手にしてはなりません。貴方の世界の問題は世界の住人と貴女でしっかりと解決、精進してこそ神格もあがるのです!私たちの世界の神々もそれをわかっているからこそ、どれだけ人々が苦しんでいても、決して見放さず人々に寄り添って歩んできたのです。それを忘れてはなりませんよ?」




「ハイ!わかりましたです!」




本当に、子供にはどうしても甘くなってしまう・・日本の神様がため息をついたところで異世界の神様は良いことをしたとうんうん頷きながら転移の準備をしている。




まぁ、あまり否定ばかりしても仕方ないでしょう。なんでも願いを叶えるのは良くないことですが、この女性ならなんとかやっていけると信じましょう。


私からは少しですが、幸運(食料)の能力をそっと与えておいた。


さぁ、若い神の滾る熱意に巻き込まれた私の世界の小さな魂。どうか自由に生きてみてまた私の処へ戻ってきなさいね。




こうして神様達の気まぐれ?あるいは教育の一環?は始まったのである。




――――――――――――








「いいでしょう。その願い叶えます。」








―――――――――――――






どこからか優しい声が聞こえた気がする。






あぁ・・身体から魂が抜けていく、これから天に還されるのだろう・・。




天国か地獄か行きつく先は私には判らない。




でもきっと魂はリセットされてゼロになるのだろう。それも悪くない。




悪くない・・。












目が覚めたら見知らぬ天井?いや青空・・。






私は確かに人生を終えたはず・・でも呼吸ができている。とするとここは?




「よっこいしょ~。」


いつも通りゆっくりと起き上がってみるとだだっ広い草原であった。


「アイタタタ・・って痛くない?」


長年の無理がたたって起き上がることも苦労していた身体がすんなりと持ち上がる。


ゆっくりと自分の身体を確認してみると見覚えのある若い頃の自分の身体だった。




「ほえ~、これはまさしく10代ピチピチだった私じゃ・・。」




疑問に思いながら自分の服装を確認してみると、腰履きのジーンズにタンクトップ。上着はお気に入りの黒のスエードのジャケットにごつめの皮のブーツ。


後はシルバーのネックレスに指輪が複数・・髪の毛はピンクアッシュのセミロング・・これは・・・少しヤンチャしてた頃の10代の身体だろう。


うーん要するに、今は魂になったから体が全盛期になっているということかな?


となるとここは天井・・ではなく、天上だろう。




割と信心深い方であった女性は直ぐにそういう結論に至ったのである。




「えーっと確か渡し舟に乗って閻魔様の所でこれまでの人生の采配を受けてだったかな?」






キョロキョロと草原を見渡してみるが川は見当たらない。






あれ?子供達が六文銭を持たせてくれなかったかな?忘れっぽいとこあるからなぁ~うちの子。


いやでも。葬儀屋さんがちゃんとしてくれるはず!


いや~どうしたもんか・・。自分で川を探すべきか・・どうするべきか・・。




と懐をごそごそと探ってみると一通の手紙が入っていた。








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おはようございます。


まずは、中々にハードであった人生を道に迷わず生き終えたこと、ご苦労様でした。




日本で研修中の異世界の神様です!




たまたま日本へ研修にきていた処、貴女の自由に生きてみたいとの最後の願いをちょこっと叶えてあげようと思って力を使いました(ハート)




ですので、私の異世界で貴女を若い身体で転移させました。


どうぞ気の向くまま生きてみてね!!




お礼はたまに教会で祈ってくれたら良いよ!それが僕の力になるからね(ニッコリ)




こっちの世界は地球で言うと中世くらい。まだまだ未成熟だけど貴族ではないし、自由度はとても高いと思うよ!危険も沢山!冒険してね!!




追伸:魔族がいるし魔法が必要だから最初に少し身体を強化してるのと、好きな魔法を5つまで考えて使用できるようにしてあるからまずはステータスって唱えてね!


君がどんな魔法を想像するのかわくわくするよ(激にっこり)




では!素敵な異世界ライフを存分に楽しんでくれたまえ!!




神様アントニオより。




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おうふ・・。


これはあれですね、退屈な病院生活に孫が持ってきてくれた異世界ファンタジーの小説のようなことでしょう。


あれがなければ流石に人生経験豊富な私でも気づいたら草原にいましたなんて状態にパニックになっていたことでしょう。




ありがとうね。孫ちゃんのおかげだよ。


楽しそうに自分が好きな小説を読み聞かせてくれた孫ちゃんに感謝感謝。




こうして私の第2の人生?余生は始まったのである。


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