劇場版 文化祭の破壊者(デストロイヤー)①

 –––– ここは古墳中学校の地下ボイラー室。

薄暗く、空気の澱んだ密室の中で膨大な瘴気を纏った欲望の化身が目覚めた。


『……魔砲少女。僕たち『ヨクボウ』に贖う愚か者だね。でも…もう、遊びは終わりだよ』

 そのヨクボウは、『クックックッ…』と、低く笑うと、ボイラー室を包む闇がより一層深く満ちていった。

『もう手加減はしない。、一気にカタをつけるよ』

 そのヨクボウの声に呼応するかのように、次々と現れたヨクボウ達。それらは口を揃え、『はっ! 必ず我々が魔砲少女を殲滅し、この古墳中学校を手中に収めます』と、ひざまずいた。


 –––– 暗雲立ち込める古墳中学校。

   この日、文化祭の2日前だった。



「皆さん、女庭メオですわ。やっと衣裳ができましたわよ♪」


 2日後に控えた古墳中学校文化祭。

生徒達は出し物である演劇の準備に勤しんでいます。

 その中、メオちゃんは完成した衣装を手に嬉しさ爆発、元気ハツラツ。 これが、リア充爆発の語源だと、近所のおっちゃんが言ってました!


「メオちゃん流石だよ。素敵な衣装だよ」

 本作ヒロインの、はにわハオちゃんも素直に衣装の出来を讃えます。

 –––– そう、この二人は魔砲少女。本編の主人公達です。


「メオちゃんの衣装のおかげで、アッシは最高の演技が出来そうだよ」

 やっぱりです!我らがヒロインは、演劇でもヒロインに違いありません!

 お題目は……まあ!『ロミオとジュリエット』ですね!


「アッシは、ティボルト登場人物の……馬役を演じ切るんだよ!!」

 これはシェークスピアも真っ青な悲劇です!! ハオちゃんはの馬役でした!!

 いいえ!……この演劇は、ヒロインの美しき自己犠牲が織りなす奇跡の物語になるでしょう。


「ふふっ、ハオちゃん。凄くキュートな衣装だね。きっと君に似合うと思うよ」

 出ました。劇場版には欠かせないキザったらしい新キャラです。

 彼は同じクラスの男子生徒。名前は……

「仲間 ユウト。僕の名前さッ♪」

 ああ、ウザったらしい。絶対クラスには1人いるテンプレキャラも必要です。ここは堪えていきましょう。


「あ、そうだ。メオちゃん、君がジュリエット役で僕は嬉しいよ。口付けのシーンは気持ちを込めて『演技』するね」

 ユウトくんは『ふっ』と、髪を掻き上げウインクします。その仕草に立ったのは腹か、鳥肌なのかは皆様の判断にお任せします。


「え……ええ、宜しくですわ。ユウトさん」

メオちゃんが八方美人の許容量を超えて、顔を引き攣らせる中、事件は起こりました。


『文化祭をぶっ壊してやるゼェぇ!』

教室を包む絶叫。数人の男子生徒が暴れ始めたのです!

 なんという事でしょう!

彼らはバルコニーのセットを蹴り倒し、ハオちゃんの衣装である馬のタテガミを毟っています!!

『おおおおおお?! ハオよ! 何体ものヨクボウが襲ってくるぞぅぅ!』

 ハオちゃんの埴輪の髪留めは、いつになく差し迫った声をあげます。 コレは只事ではありません!


「ハオちゃん、変身だy…」

ハオちゃんが変身しようとした時でした。

『ガシッ』と、背後から羽交締めされてしまったのです!

『魔砲少女ぉ〜 そうは問屋が卸さないぜぇ〜』

 今のネット社会に問屋とは、コレは恐ろしいヨクボウに違いありません!! その男子生徒はニマニマと悍ましい口元で囁きました。

『変身できなければ怖くねぇ。俺たちの勝ちだぜぇ〜』


 その時でした。

「その手を!離せッ!!」

ヨクボウに支配された生徒にタックルをかましたのは、なんと先程のユウトくんでした。

 劇場版では、悪い奴も良い奴になる現象が炸裂します!


「ハオちゃん!チャンスですわ!」

いつも通り、メオちゃんの激熱カットインが入ります!

「ハオちゃん!変身だよ!!」

 ハオちゃんが髪留めにタッチ。光を纏って変身です! 今回ばかりは、ヨクボウといえどやり過ぎです。皆んなの努力を壊すのは許されません。ハオちゃん、手加減は不要です!


「ハオちゃん、、覇王モードだよぉぉおお!」

 –––– ッッッ!!

これは、前作一話目以来の覇王モードです!

 筋肉の化身。埴輪の権化。

破壊神、埴輪覇王が降臨しました!!


 ……が。


 なんと、そのタイミングでヨクボウに支配された生徒達は気を失い倒れていきました。

 それは、ヨクボウ達が自ら退いた様に一斉に起こったのです。

「何が……起こったんだよ……?」

 ハオちゃんはみなぎるパッションを抑えきれず、悔しさのあまりピクピクと筋肉が震えています。

 それもその筈。教室には破壊されたセットや衣装が散乱していたのです。


「そんな……」と、残された生徒達は涙を流します。

 この物語に涙は似合いません。勿論、笑い泣きは大歓迎ですが、今回ばかりはそうも言ってられません。


 –––– 今回のヨクボウはコメディの概念を覆し、シリアスな展開に引き込むほどに恐ろしい敵の様です。


           –––– つづく

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