不協和音の音楽室

 皆さんご機嫌いかが? 女庭メオですわ。

無事に臨海学校を終え、また日常が戻って来ましたわ。みんなで一緒に過ごした時間が、お友達の絆を深めますわ。

 と、いうわけで今日はご飯のお供達を考察しますわ。


 【お供レベル1】

ホカホカご飯に明太子どーん。

究極のメシ友降臨ですわ。


 【お供レベル100】

ご飯に掛けたるは『うなぎのタレ』

これだけで白米が止まらなくなりますわ。

もはや、お供の暴君。米泥棒ですわ。


 【お供レベル限界突破】

豚生姜焼き。は、置いといて、その匂いだけでご飯3杯食べる体育会系男子。あなたがチャンピオン。お供の覇者ですわ。


 それでは皆様。本編スタートですわ。



「やあ、アッシだよ。はにわハオちゃんは、アルトリコーダーを吹くよ」


 ヒロインが歌を唄ったり、音楽を奏でるのは現代において必須条件と言えるでしょう。

 しかもその腕前はプロ級でなければいけません。

『ピィィア♪ ピッピッヒャララァァアア♬』

 ぐっ、な、なんて個性的な音色でしょう。

転調の織りなす5拍子が、ハオちゃんの魔砲とあいまって、あの世を垣間見せてくれます。


「ハオさん!お願いです、演奏を止めて下さいッ! イヤァァアア!!」

 音楽の先生が形振なりふりかまわず叫ぶのは、超絶技巧ヒロインに恥をかかされた教師の抵抗でしょう。大人の汚さが容赦なく露呈する瞬間をカメラは捉えました!


「みんな、口から泡を吹いているんだよ?」


 なんという事でしょう!生徒の大半は気を失った模様です。音楽室からお届けしたのは素敵な音色か、あの世への冥路なのかは、皆様の判断にお任せします。


『おおお…… ハオよ。ヨクボウが来るぞぅ』


 これはッ?! 何て事でしょう!!

白目を剥いて立ち上がった男子生徒が、『泡だぁ! いっぱい泡がある!! コレをいっぱい集めてっと♪』と、クラスメートの口から泡を集めだしました! 

 どうやら、これは友達を介抱するつもりではなく、ヨクボウに操られているものと専門家が申しております!


『この泡を…… 頭に乗せて、、『ベートーヴェン』の真似ぇぇえ!!』

 いけません!!

ベートーヴェンの髪型はカールです! それではパンチパーマではありませんか!


「よくも……皆んなを酷い目に遭わせたんだよ。アッシは許さないんだよ!!」

 いつもは温厚なハオちゃんですが、その残忍な行動に堪忍袋の尾が切れました。

「ハオちゃん!変身だよ!!」


 埴輪の髪留めに触れたハオちゃんは、いつもより眩い光に包まれます。その光に狂乱の男子生徒は『くっ!』と、手のひらで目を覆いました。


「トニック•オア•トリートメント!だよぅ!」

 両手に輝くハサミを携えたハオちゃんは、怒れるカリスマ美容師に超変身しました。

 季節外れのハロウィンっぽい言葉は、『貴様には地獄すら生ぬるい』という暗喩が込められています。


『なんだと?俺のベートーヴェンヘアーをツーブロックにするつもりかッ?! そうはさせんッ!!』

 泡のセットを気にしながら、男子生徒はハオちゃんに飛びかかります。


 そして…… 勝負は一瞬で決まる事となりました。

「悪•霊•退•散!!」

 刹那、狂乱の男子生徒の髪は忘却の空へと舞い上がったのです。


 –––– それはこの世を照らす光そのもの。

見事な丸坊主です。


『ば!馬鹿なァァアア?! 俺はハサミの軌道を完璧にかわした筈なのにッ!』

 男子生徒の断末魔に、ハオちゃんはゆっくりと声を掛けました。

「ハサミは残像だよ。尖っていて危ないからバリカンにしたんだよ……」


 ハオちゃんの憐れむ気持ちが伝わったのでしょうか?

 男子生徒は『こんな俺に…… 情けを掛けるとは…… 完全に負けたぜ』と、楽譜が散乱する床に沈みました。


「ヨクボウ…… アッシは負けないんだよ」

 舞い上がった楽譜と髪の毛が降り注ぐ音楽室で、ハオちゃんはバリカンのお手入れを忘れずに、そっと呟きました。


            –––– つづく。

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