それでも言い訳させてほしい、というか聞いてほしい

無頼 チャイ

いいわけをさせて欲しい

 遅刻した。今担任に叱られている。遅刻したのが悪いというのは分かるが、これには訳がある。

 頭に血が上った担任に聞く耳などないだろうから、聞いてほしい。

 いや、というか……、むしろ聞いた上で聞かせて欲しい。

 これって俺がおかしいのだろうか?



□■□■□


「寒いな、もうちょい着込めば良かったか」


 いつものように自転車で通学路を走っていた時だ。ゆるい坂を上って、パンパンになりそうなふくらはぎをグーで小突いてると。


「ちょ! どいてどいて!」


 「ん? は? え、ちょっ!?」


 何か前から声するなと思ったら、女が突っ込んできた。

 さてはラブコメか? なんて思った野郎は次の出来事を聞け、ニヤってる場合じゃない。


「我々ト共ニ来イ!」


「ごめんね。怪我はない!?」


「俺の自転車奪ってから言うな! つか待て! てか待って!!」


 パンを咥えた女子高生という都市伝説は聞いたことある。が、宇宙人を連れた女子高生は初耳だ。いや初見か。

 しかも自転車をパクられたので追いかける羽目になった。


「おいっ! 自転車返せ!」


「アタシ今あの宇宙人に追われてるの!」


「何となく分かってたが窃盗は窃盗何だよッ!」


 その電動自転車地味に高いんだぞ!


 怒りと下り坂が割りとスピードを上げる。宇宙人はごぼうが人っぽい形をしたような姿をしていた。

 体力なさそうな見た目してるのに疲れる気配が見えない。


「アタシは大丈夫だから! 気にしないで!」


「俺が気にするんじゃ! それにもう巻き込まれてるから大丈夫じゃねぇー!!」


 疾走する中人とすれ違う、すれ違った後に悲鳴が聞こえる。そりゃ道だし俺が通る通学路なのだから人がいて当たり前だ。

 今さら宇宙人に恐怖してたら温まった足の筋肉が冷めてしまう。だから女の背中に全力で自転車を返すように訴える。というか電動自転車の方がまだ助かる可能性があるから必死にもなる。


「お前何したんだ! どうしてあいつらは追いかけてるんだよ!」


「えっと……。あ、そういえばね、本屋にあったぬいぐるみが可愛くてさ、ぐちゃぐちゃにモフりたいぐらい可愛いの! 深夜の散歩の時に店の扉越しに見るんだけど、あ、筋トレしてるんだアタシ。筋肉付けたくて! それでなんやかんやあって今宇宙人に追われてるんだ。宇宙人見れたのはラッキーだよね! 多分この7の形したお守りのおかげだけど、追いかけられてる今にしてみると、これってアンラッキー7(セブン)だよね! あはは!」


「能天気かッ! 人の電動自転車で余裕と元気取り戻してるんじゃねーよ! ってかそのなんやかんやを教えろ! 絶対そのお守りが何か関係してるだろ!」


「分かんない、さっき拾ったから」


「じゃあ確定だよッ! それ貸せ!」


 女が片手に見せていた7の形をした物体を、スライディングの様な格好で急転回してごぼう軍団に放り投げた。


 思った通り、それが奴らの目的だったようだ。

 その場で穴を開けて地中に姿を消した。


「助かったよ、あ、いけない! アタシ学校に行かなきゃ何だ。バイバーイ!」


 そう言って、女子高生はポニーテールを揺らしながら宇宙人のいた方に向かっていった。

 去ったばかりとはいえ危ないな。


「……あ、俺の自転車」



□■□■□


 昼休みにやってきた寝過ごし野郎ということでこっぴどく叱られ、半分になった昼休みの時間で弁当を食うが、シェイクされた弁当はぐちゃぐちゃで、まるで俺の心のように、口にするまではっきりしない味になっていた。


「自転車は盗られるわ担任に怒られるわで最悪だ」


「全くだよ、転校初日に大遅刻してめちゃくちゃ叱られて余計疲れた。むしろ宇宙人と追いかけっこしてる方がまだ良かったような気がする」


「いやそんな訳無いだろ、未確認生命体がマシってどういうしんけい……あ」


「おっす。自転車ありがとね!」


 自転車の鍵をくるくる回して笑う女が、俺の机に手を置いて、そっとこっちを覗き込んだ。


「逃げてる時は見えなかったけど、こんな顔してるんだね。もうちょっと笑えば? 何だか堅物なおじいさんみたいな顔してるよ? ほぉえっ!?」


「オ〜マ〜エ〜!!」


 不運の中でも幸運は訪れるらしい。女の顔を両手で強くつまみ横に引っ張る。ほえほえ言ってるが気にしない。だってこいつ自転車泥棒だもの。


「何か言いたいことはあるかッ!!」


「い、いいわけをしゃしぇてくだしゃい!」


 最後に聞きたい。これは俺がおかしいのか?

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