建国祭 8
◇
翌日。
「起きたばかりでごめんねー。あ、身体は大丈夫?」
「あ、はい」
話を聴きたいと言う騎士団の人が孤児院にやって来た。ボクと騎士団の人はテーブルを挟んで対面している。
「わたしはルミナス騎士団のフレア。で、こっちの眼鏡ちゃんはクリア」
「ちゃんと紹介して下さい。……同じくルミナス騎士団のクリア・ホヤンスです」
「イノです」
長くて綺麗な赤い髪を伸ばした女性が適当に自己紹介する。
彼女の名前はフレア。ルミナス騎士団に所属している。その実力は騎士団の中でも上位であり、団長に匹敵するとも言われる。
性格はかなりいい加減で、何でも殴って解決しようとする場面がよく見られる。
もう一人の女性はクリア・ホヤンス。丸い眼鏡を掛けていて、金色の髪を肩に届かない程度の長さで切り揃えている。貴族の御息女だ。
彼女も同様に騎士団に所属していて、主にフレアさんの補佐をしている。きっちりとした真面目な性格でフレアさんとは対照的だ。
二人とも『ルミナスストーリー』の中で度々登場する重要人物だ。
「実はイノ君が寝ている間にリオ君とローザちゃんにはもう会ったんだよね。何か聴いてる?」
「えっと、リオが暴走してたのを止めてくれたんですよね?」
「そうそう、偶然屋根の上を走るリオ君を見つけてね。びっくりしたよ。いやー、あの子は強くなるね」
楽しそうにフレアさんは笑っている。
完全に頭に血が上っていたリオを止めてくれたのが目の前にいるフレアさんだ。
「あとローザちゃん!良い祝福だよねぇ。二人とも絶対良い騎士になると思うんだよね」
「はい。分かります」
フレアさんは見る目がある。
「ふふ、イノ君もそう思う?」
「フレア、本題に入りましょう」
クリアさんが話を切り上げる。
「そうだった。確認の為にわたし達は来たんだ」
フレアさんはテーブルの上に両肘を付いて両手を組み、顎を乗せた。雰囲気が変わる。ボクを値踏みするように見つめている。
「これから君に質問するね。正直に答えてくれれば直ぐに終わるから」
「……はい」
雰囲気が変わったフレアさんを見てボクも居住まいを正す。
フレアさんはクリアさんへ目配せする。
「では早速。イノ君、貴方は祝福がどのような物であるか知っていますか?」
「えっと、普通の人よりもすごく力持ちだったり、不思議な力が使えるようになると聞いた事があります」
「そうです。とても危険な力です。もしも力が暴走したら自分だけでなく、周りの大切な人までも傷付けてしまいます」
クリアさんの瞳がボクをじっと見つめている。
「イノ君」
クリアさんの身体が仄かに輝く。
「貴方は祝福を受けていますか?」
「ボクは祝福されていないと思います」
その瞳を真っ直ぐ見つめながらボクは答えた。
「……」
数秒間、視線を交わす。やがてクリアさんはふぅと息を吐き出して瞳を閉じ、訝しげに眉を歪めた。
「どう?」
「……嘘はついてないようですが」
「が?」
「いえ、不思議です。とても子供とは思えないほどしっかりしていますねイノ君」
きちっとした表情を僅かに緩めてクリアさんは微笑んだ。その瞳はもう輝いてはいない。
「そ、そうですか」
クリアさんも祝福を受けた人間だ。
彼女の祝福は少し特殊で、人の内面を読み取る事が出来る。怒りや焦り、喜びや悲しみ等の感情、性格、善性悪性を見抜く事ができるのだ。おそらく、ボクが祝福されている事を隠していないか確認したのだろう。さすがに何を考えているかまでは分からないので、ボクに変な記憶がある事まではバレていないと思う。
「少なくとも悪い子では無いみたいですよ」
「クリアが言うならそうなんだろうね。りょーかい。じゃあ質問は終わりね」
フレアさんは椅子から立ち上がって伸びをする。
「それじゃあ最終確認ね。ちょっと外に出ようか」
◇
ボク達は孤児院を出て人気の無い空き地にやってきた。ボク達というのは、ボクとフレアさん、クリアさん、そして何故かリオも一緒だ。何故か分からないけどフレアさんに肩を組まれて強制的に連行された様子だ。
「あの……マジでやるんすか……?」
「マジ」
よく聞こえないが二人でボソボソ話している。
「あの、最終確認て何をするんですか?」
「……ごめんなさい。私からは話せないの」
クリアさんはさっと視線を逸らす。いったい何が行われるのだろうか。ボクは段々不安になってきた。
『ルミナスストーリー』にはこんな話は無い。祝福されたのはリオとローザの二人だけで、他の子どもが祝福されたという話は無いのだ。
「待たせてごめんねー」
フレアさんが笑顔でやってくる。遅れてリオが来るが、表情が暗い。
「あの、リオどうしたんです?」
「あぁ、今から説明するから」
フレアさんの全身が突然輝き出した。祝福を発動した証拠だ。フレアさんは変わらずに笑顔を浮かべている。
「実は最終確認って言うのはこっち。リオ君の方なんだよね」
リオの表情は暗い。ボクは何だか嫌な予感がした。
「リオ君が暴走して騎士団に捕まった話、聴いてるよね?」
「は、はい。マリア院長から聴きました」
「ああ言う事がまた起きると危険だよね?」
フレアさんは変わらず笑顔でいる。仮面のように張り付いた笑顔が不気味だ。
「あ、あの……リオは反省していて」
「当然、反省して貰わないと困るよ。でも口だけなら何とでも言えるから」
フレアさんの拳に炎が現れる。文字通り、フレアさんの拳が燃えている。彼女の祝福だ。炎を操る。シンプルであり、恐ろしく強力な力だ。
「悪さをしたら罰を受けるんだよ」
力強く、厳かに、ゆっくりとリオに向かって一歩踏み出す。
「今から行うのは躾だよ。祝福で悪さを働いた人間には、こうやって罰を与えるんだよ。二度と悪さを働かないよう徹底的に身体に刻み込むの」
「ま、待って……」
「動くな」
フレアさんの鋭い視線と静止の声で身体が固まった。
さっきまでの笑顔は跡形も無く消え去っていて、冷たい表情でボクを睨みつけている。
怖い。
「君は見届け人だよ。悪さをしたらどうなるか、後でローザちゃんにも教えてあげて」
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