手作り栞も差し上げます!
奈名瀬
手作り栞も差し上げます!
幼い頃から怖いのが好きで、よく変な子扱いされてきた。
だから、同い年の男子に告白されるかも……なくて、考えたこともなかったのだ。
「だからって、返事もせずに逃げ出すなんてねぇ」
「だってぇ……」
言い訳を続けようとした途端、友人の口からため息がこぼれる。
「お化け屋敷じゃ悲鳴ひとつあげないくせに……恋愛が絡んだ途端にチワワになるんだから」
「うぅ……」
返す言葉がなく小型犬のように唸っていると、彼女は優しい眼差しを向けながら告げた。
「大丈夫。なんだかんだお弁当だって渡せたんだし……あんただって、好きなんでしょ? あいつのこと」
こくりと静かに頷く。
でも――、
「でもね……好きって、ただそう言えばいいだけなのに。わかってるのに――彼の前だと、何て言ったらいいかわかんなくなるんだ」
――『好き』と思っていても、どうしても言葉が出てこなかった。
彼を前にした途端、固く結んだリボンかと思うくらい、どうしようもなく唇がほどけなくなってしまう。
「……口下手だもんね、昔から」
それから、私をよく知る友人は……、
「でもさ、きっとそれでいいんだよ。だって、あいつもそんなあんたのことを好きって言ったんだからさ」
……ゆっくりと肩を抱き寄せて、耳元で囁いてきた。
「一緒に考えよ? その気持ちを、ちゃんと伝える方法を……ね?」
◆
夕陽に影を引っ張られながら彼と待ち合わせる。
目的はひとつ、彼の想いに返事をすること。
だけど、口下手な私は上手く言葉で『好き』と伝えられない。
だから――最初の、
「……来てくれたんだ」
「好きな子に呼び出されたんだ……来るだろ、絶対」
かっと顔が熱くなる。
また口が使い物にならなくなると思った。
でも、今はこの子がいる!
「あのねっ」
彼に差し出したのは、いつか作った一反木綿の栞だった。
この子には以前、彼に渡した子と同じ一言を書いてある……もちろん、今度は私の字で。
「今度は、ちゃんと私の気持ちだから!」
赤く染まった一反木綿に、彼の指先が触れる。
どこかで怖いと感じながら恐る恐る目線をあげると――、
「ありがと……めちゃくちゃ嬉しいっ!」
――栞と同じ色に染まった頬が見えて……つい口元が緩んでしまったのだった。
手作り栞も差し上げます! 奈名瀬 @nanase-tomoya
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。手作り栞も差し上げます!の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます