手作り栞も差し上げます!

奈名瀬

手作り栞も差し上げます!

 幼い頃から怖いのが好きで、よく変な子扱いされてきた。

 だから、同い年の男子に告白されるかも……なくて、考えたこともなかったのだ。


「だからって、返事もせずに逃げ出すなんてねぇ」

「だってぇ……」


 言い訳を続けようとした途端、友人の口からため息がこぼれる。


「お化け屋敷じゃ悲鳴ひとつあげないくせに……恋愛が絡んだ途端にチワワになるんだから」

「うぅ……」


 返す言葉がなく小型犬のように唸っていると、彼女は優しい眼差しを向けながら告げた。


「大丈夫。なんだかんだお弁当だって渡せたんだし……あんただって、好きなんでしょ? あいつのこと」


 こくりと静かに頷く。

 でも――、


「でもね……好きって、ただそう言えばいいだけなのに。わかってるのに――彼の前だと、何て言ったらいいかわかんなくなるんだ」


 ――『好き』と思っていても、どうしても言葉が出てこなかった。

 彼を前にした途端、固く結んだリボンかと思うくらい、どうしようもなく唇がほどけなくなってしまう。


「……口下手だもんね、昔から」


 それから、私をよく知る友人は……、


「でもさ、きっとそれでいいんだよ。だって、あいつもそんなあんたのことを好きって言ったんだからさ」


 ……ゆっくりと肩を抱き寄せて、耳元で囁いてきた。


「一緒に考えよ? その気持ちを、ちゃんと伝える方法を……ね?」





 夕陽に影を引っ張られながら彼と待ち合わせる。


 目的はひとつ、彼の想いに返事をすること。

 だけど、口下手な私は上手く言葉で『好き』と伝えられない。

 だから――最初の、勘違い思い出を頼ることにした。


「……来てくれたんだ」

「好きな子に呼び出されたんだ……来るだろ、絶対」


 かっと顔が熱くなる。

 また口が使い物にならなくなると思った。


 でも、今はがいる!


「あのねっ」


 彼に差し出したのは、いつか作った一反木綿の栞だった。

 この子には以前、彼に渡した子と同じ一言を書いてある……もちろん、今度は私の字で。


「今度は、ちゃんと私の気持ちだから!」


 赤く染まった一反木綿に、彼の指先が触れる。

 どこかで怖いと感じながら恐る恐る目線をあげると――、


「ありがと……めちゃくちゃ嬉しいっ!」


 ――栞と同じ色に染まった頬が見えて……つい口元が緩んでしまったのだった。

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