幼馴染に振られたら、超人気アイドルのセンターしてる双子の妹が義理だと知った誕生日に告ってきた
東夷
幼馴染に振られたら、妹が彼女に!?
第1話 プロローグ
俺は電車に乗り込んだ瞬間、別世界に迷い込んだかのような感覚に襲われる。
車内は超人気アイドルグループ黄泉坂
お嬢さま学校を思わせる白系に緑のストライプのセーラー服風のコスチュームに身を包み、写っている女の子たちのレベルは、近年希に見るくらい他のグループアイドルと比べても群を抜いたかわいさだった。
もちろんこの車両だけじゃない。
この路線すべての電車がジャックされていたのだ。その広告の中央には黄泉坂49不動のセンター、白石さやがかわいさを全面押し出した微笑みを浮かべていた。
車内は日曜の早朝だというのに賑やかだった。それも車内広告の話題で。
「俺はニューアルバムを買ったぞ! しかも二枚だ!」
「はあ? 僕はもう五枚買ったんだな」
ドルオタと思しき、二人の男たちはアルバムを買うと得られる握手券のために何枚も購入済みらしい。
「さあたんと握手……さいこうなんだな」
「確かに……」
二人は目を輝かせると祈るポーズで白石さやの写真を見て、恍惚とした表情を浮かべている。だが二人だけが特別ということはない。
休日出勤で落ち込むのかスーツ姿の男はうなだれていたが、釣り広告を見上げると口角が緩んで締まりのない顔になっていた。
白石さやの人気はなにも男ばかりでなかった。清楚なイメージとは真逆のギャルメイクをした派手なJKが噂をしている。
「やっぱ、さやの歌ってるとこ、格好いいよねー」
「そうそう、なんつうの。声量とあの歌の上手さとか、アイドルじゃないって」
ただ、かわいいだけじゃなく、歌唱力に裏付けされた人気。彼女を不動のセンターとしているのは男女問わず、ファンがいるからだった。
そんな白石さやの凄さが神懸かる車内に座る超絶地味な俺と妹。妹はツインテールの三つ編みに黒縁メガネ、都会に場違いな格好で来てしまったおのぼりさんみたいだった。
そんな地味ップル全開の俺たちに目をくれる人間などおらず、みんな白石さやに夢中だ。もちろん、白石さやの後ろには他のメンバーが写っているのだが、ゼネラルマネジャーの意向なのか、さやの引き立て役のようになってしまっている。
「お兄ちゃん……やっぱり恥ずかしいよぉ……」
俺の名は君塚春臣、そして俺の隣に座るのが妹の紗耶乃。目に入れても痛くない沙耶乃が頬を赤らめながら、肩にすり寄りながら俺の袖を引っ張り、呟いた。なにも妹は都会に出てきたから、恥ずかしがっているわけじゃない。
「まあ、もうちょっとの辛抱だから、我慢しなって」
「うん……」
俺が紗耶乃の頭を撫でると、どこか安堵したかのように頷いた。双子の妹なのだが、俺にはあどけなさを残したかのような甘えたところを見せる。
普段は特別恥ずかしがり屋ではないと思うのだか、俺の前で見せる表情についつい庇護欲をくすぐられてしまう。
『
車内に独特のイントネーションでアナウンスが流れ、都会の電車は揺れも少なくスムーズで乗り換えてから、気がつくとすぐに目的の駅へとたどり着いていた。
「そうだ! 今日、会社は休みのはずだっ!」
スーツ姿の男性は突然立ち上がり、右側の扉へと寄っている。
おいおい、大丈夫か?
他人事ながら、少し心配になる。駅で電車を降りると、さっきのドルオタ二人とスーツ姿の男たちは三番出口へと吸い込まれるように向かっていく。
遅れて、ギャルたちが悠々と電車を降り、俺たちもそのあとを追った。車掌が指差し安全確認を終えるとスーッと電車は発車し、次の駅へと行ってしまった。
俺は過ぎ去る電車を見つめる。
ラッピングされた電車は春色っぽい背景に白石さやの笑顔に包まれていたから……。結局乗っていた乗客はほとんどこの駅で降車し、三番出口へと向かっていた。
この路線がそうまで黄泉坂に肩入れしているのには理由があった。俺たちが降りた駅に黄泉坂が本拠とする劇場があったから。
俺たちも遅ればせながら、ドルオタたちと同じ方向を目指し、エスカレーターに揺られながら、地下から地上へと出ると、太陽の強い日差しが目に飛び込んできて、思わず手で目を覆う。
陰キャの俺には自然なスポットライトすら眩しいが、隣にいる紗耶乃は地味な格好をしているにも拘らず、まるで陽の光が妹のためだけに照らされているのではないか、と錯覚させられるほど、その姿は輝いて見えた。
五分ほど歩くと激安量販店が見えてくる。その隣にはリニューアルを終えたばかりのYMS劇場があった。さっきのドルオタたちはきちんとルールを守り、劇場のガラス戸の前で黄泉坂メンバーの入り待ちをしているらしい。
するとふわっとしたウェーブのかかった金に髪を染めたお嬢さま風の子が現れた。
「篠原麻美か……」
「しのちゃんは人気あるよね!」
Bチームのリーダーだけあり、華がある。サッと横顔にかかった髪を払うだけで、入り待ちしてる者たちから「ああっ、麻美さまっ!」とため息が漏れていた。普通の女子がすれば、鼻につく仕草も彼女には似合う。
早く来た黄泉坂メンバーは彼らから羨望の眼差しで見られていたが、俺の妹の紗耶乃が彼らからそのように見られることはなかった。
あんな美少女でも白石さやの人気や実力に敵わないのだから、芸能界というのは残酷な世界だと、ちらと我が妹の紗耶乃を見て思う。
華やかな劇場の出入り口を誰に注目されることなく通り過ぎ、雨樋や排水管が壁に伝う狭い通路を通り劇場の裏口へと着いた。
だが俺たちにとっては数年前から通い馴れた通路であり、悲壮感など皆無。なぜなら、俺たちが通った道は黄泉坂メンバーなら必ず通る研修生の通用口につながっているのだ。
「「おはようございます!」」
地下の駐車場と搬入口につながるドアを開け、警備員の詰所の受付で座る人の良さそうなおじさんに二人で挨拶をした。
「おはよう! いつも君たちは気持ちの良い挨拶をしてくれるね~! 売れちゃうと、こちらから挨拶しても、ぼくたちなんて無視しちゃう子も多いんだよ……」
と、おじさんはポロリと本音を漏らしてしまう。
「そうですよね。周りの人たちに支えられてるんだ、もし売れても偉ぶることなくみんなにちゃんと挨拶しよ、っていつも話してます」
「うんうん、お兄ちゃん、そういうことに厳しいもんね」
俺の言葉にふふっと口に人差し指を当てて笑みをこぼした表情は美の女神が微笑んだように、神懸かったようにかわいくて、地味な格好をしているのにおじさんは赤くなって照れてしまっている。
「妹さんなら絶対に売れるからね。もう何年も売れる子を見てきたぼくが言うんだから、間違いない!」
おじさんのお墨付きをもらった紗耶乃は嬉しそうに、
「ありがとうございます」
と告げて、いつもライブに来てくれたファンに向かってお礼するように完璧な仕草で頭を下げている。おじさんは「感動しちゃったよ」と目頭を押さえてうるうるしていた。
ここは一般人の世界と芸能界を分けるゲートのようにいつも思う。
「頑張れよ、紗耶乃!」
「うん! 頑張ってくるよ、お兄ちゃん。とその前に……いつもの……」
「たくっ、いつまで経っても変わんないな」
妹は上目遣いで俺をじーっと見つめて、劇場に入る前にしている儀式を待っていた。
「今日も紗耶乃は頑張れる、俺が保障する!」
と言いながら、頭を良いことをした子どものように撫でると、にぱーーっと緩んだ笑顔を浮かべていた。絶対に人前で見せない俺だけが知る妹の笑顔。
儀式が終わると頬を赤らめて、通用口の奥へと駆けて向かう紗耶乃だったが、くるりと振り返り、俺に手を大きく振っていた。俺が振り返すと微笑んだあと、その姿は見えなくなる。
地味な双子の妹だったが、俺に見せる子どもっぽいところはたまらなくかわいいと思っていた。まあ、実の妹なんだけど。
(お互いにシスコン、ブラコンが抜けない)
だけど、それでいい。俺たちは双子の兄妹なんだから!
今日は黄泉坂の公開リハだった。
なのに劇場は満員御礼となってしまうくらい詰まっている。こんなこと、白石さやがセンターになるまで有り得ないことだったらしい。
俺は今、劇場の眩しいくらいのスポットライトを浴び、稽古だというのに詰めかけたファンからの大声援を受けた白石さやを見ていた。さっき見ていた篠原麻美はさやのバックに控えている。
「みんなーーーっ! 今日はお稽古なのに集まってくれてありがとうねーーっ!!! ちょっと失敗してしまったら、その子を暖かく応援してくれると嬉しいな~。って、私が失敗しちゃうかも。じゃあ、一曲目行っくねーーーっ!!!」
頑張れ! 沙耶乃!
俺は妹の立つ舞台を見守っていた。
―――――――――あとがき――――――――――
作者、性懲りもなく冷やし中華みたいに新連載を始めました。
【乙女ゲーのざまぁされる馬鹿王子に転生したので、死亡フラグ回避のため脳筋に生きようと思う。婚約破棄令嬢と欲しがり妹がヤンデレるとか聞いてねえ!】
異世界ファンタジーざまぁラブコメですので読んでいただけるとうれしいです!
表紙リンク↓
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます