キミのいいわけ

江崎美彩

第1話

 嫌いな野菜も細かく切って料理に混ぜ込めば食べる。

 昔からある定番の好き嫌い対策だが、それなりの実績があるからこそ定番なのに違いない。そう考えて料理が苦手なりに、頑張ってみじん切りをした。


 今キミの目の前にあるチャーハンは、普段の三倍も時間を有して出来上がったものだ。


 だというのに、キミはさっきから、その小さな手でスプーンを器用に操り、努力の結晶であるみじん切りしたピーマンと人参をチャーハンの山からほじくり出して綺麗に仕分けて、米粒とハムだけ食べている。


「ほら。美味しいよ。ピーマンさんも人参さんも食べてって言ってるよ。お野菜いっぱい食べたら大きくなれるよ。大きくなってほしいなー」


 優しく声をかけてもキミはきく耳を持たない。


 さっさと食べなさいと命令形を用いたい。食べなきゃ大きくならないと否定形を用いたい。

 そもそも怒らない育児ってなんだ。自己肯定感を高めるってなんだ。


 考えても答えは見つからない。


 野菜を細かく切って混ぜてしまったから、仕分けのために普段以上に時間をかけてお昼ご飯を食べているキミを、ただただ見守る。


「おいしいのあげるー」

「え?」


 戸惑うこちらは気にもせずに、キミは大嫌いなピーマンと人参ばかりが残ったチャーハンの皿を押しつけてきた。


「おててぱっちん。ごちしょーしゃまっしたー!」


 キミは元気よく手を打ち鳴らすと脱兎の如く席から逃げ出した。


 仕方なしに、キミから押しつけられたチャーハンを食べる。


「おいしいねー! わぁ! おっきくなったねー!」


 残念ながら、大きくなるとしたら縦じゃなくて横だ。


「おおきくなってほしいだったんだー。だからあげたの」


 さっき言われたことを言い訳に使って、一丁前な口をきくようになったキミの成長は目覚ましい。


 ──言い訳して飯分いいわけか。


 うまくもない駄洒落が頭に浮かぶ。


 疲れているんだな。そう自嘲して野菜だらけのチャーハンを掻き込んだ。

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キミのいいわけ 江崎美彩 @misa-esaki

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