第57話 好意的な相手と好戦的な相手
ティス町での屋台の初日は大成功となった。
途中で土地を貸してくれた大家さんが来てくれて、たれ焼肉とたこ焼き、トーモロをご馳走すると、いくらでも借りていいと言ってくれた。
いつまでいるかは考えていないが、一週間――――つまり、四日くらいは残ろうかなと考えている。
こう、一日でいなくなるのでは、【自由の翼】の噂が広がりにくいと考えてのことだ。
今日の開店時間が終わり、多くの町民達が満足してくれる運びとなった。
その時、昨晩出会った女性がやってきた。
「こんにちは」
「どうも」
「こんなに美味しいものを食べられるとは思わず、凄く感動しました!」
「満足して頂けたら嬉しいです」
「えへへ~私、クーナといいます」
「クーナさん。僕はノアといいます」
「もしよかったら夕飯を食べに来ませんか?」
後ろから痛い視線を感じる。振り向かなくてもセレナのものだと分かる。
「すみません。メンバーがいますので……」
「あら、残念。では今日の件も含めて交渉させてください」
交渉……? 何か目的があるとは思ったが……。
「私、ティス町の町長の娘なんです。主に外交のお仕事を担当しているんです」
町長の娘さんだったのか……なるほど。それに外交まで……。
「今日食べたトーモロは初めて食べた味でした。もし良ければ、そのレシピを売って頂けませんか? 言い値で構いません」
レシピと言われても……ただ蒸すだけなんだが……。
ただ追加でバターと醬油。これをあれだけまぶすのは、至難の業だ。
「あれは単純に蒸しているに過ぎません。あとはバターとしょっぱい油を軽く塗ってます」
「あら、そんなに簡単に教えてくださって良いのですか?」
「まあ……真似てくださって問題ありませんので」
そもそも僕のレシピというよりかは、僕の力によるレシピだし、真似て貰っても何も痛くも痒くもない。
そもそも【一秒クッキング】の良さは一瞬で料理を完了させることと、完成度にある。
「では感謝の印に、今夜の食事会にお誘い致します」
っ!? や、やられた……。報酬をもらわずに教えたことで、食事会に誘われる口実になってしまった。
彼女が町長の娘であり、外交担当だと知った上で断るのは難しい。世間体というやつだ。
「仲間が一緒でも?」
「もちろんです。みなさんでいらしてください」
獣人族であるライラさんも快く受けてくれるようだ。
仕方なく今日の夜はクーナさんのところにお邪魔することが決まった。
彼女と別れて、一度宿屋に戻っている間。
とある冒険者達が僕達を睨んでくる。
その視線は僕やセレナではなく、ライラさん達に向いている。
「こんな臭い獣の匂いがする店を利用するなんて、こんな田舎の町の者は鼻がひん曲がっているんだろうな!」
「がーはははっ!」
ライラさん達を指差し笑う彼らにセレナが突っかかりそうになったので、肩を握って止める。
最近優しい人に出会って忘れたが、異世界は基本的に力を持つ者が上に立つ。
彼らの発言が全て上位になるのだ。
周りの町民達が逃げるように去って行った。
「…………」
「なんだ。小僧」
睨んでいる僕を見下ろしながら威圧してくる。
仕方がない……ここは一つ――――――
目の前にテーブルを取り出した。
「はあ!?」
それと一緒に【たれ焼肉】も召喚する。
「はあ!?」
まあ、突然のことで驚いただろうね。
僕は優雅に椅子に座り、冒険者達を見つめた。
「さあ。続けてどうぞ」
「は……?」
「いや、もっと罵ってくださって構いませんよ。どうぞ」
そして、たれ焼肉をゆっくり食べ始めた。
いや、こういうストレスを感じそうな時は、美味しいものを食べるに限るな。
「ミレイちゃん~一緒に何か食べるかい?」
「えっ~! たこ焼きがいいです!」
「よし、みんなでたこ焼きを食べよう」
今度はたこ焼きを作って、みんなで食べながら冒険者達を眺めた。
「あの~そろそろ罵ってくださいませんか?」
「ふ、ふざけるな!」
一人の男がテーブルを蹴り飛ばそうとした。が、蹴り飛ばす直前にセレナの腕が蹴った足を握りしめた。
「先に手を出されたなら自衛していいのよね? ノア」
「ああ。やっておしまい~!」
「かしこっ~!」
それからはセレナにボコボコにされた冒険者達を放置して帰っていった。
「ノア~怒った?」
「そりゃ怒るだろ。うちの可愛い妹を臭いとか言ったんだぞ」
「ふふっ」
何故かセレナが嬉しそうに笑った。
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