第004話 卒パの個人出店に鉄火場を添えて

(side:日記)

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朝から昨日のガチャの爆死を思い出して萎えた。正直、学校に行こうという意志が持てない。仕方がないので、体を動かすことで気分転換をした。やっぱり、体を動かすのも良いものだと思った朝だった。

金曜は迂闊な事をして花園さんを狂喜乱舞させてしまったので、篤人と気を付けようと話しながら教室に着いたら、朝からフルスロットルな花園さんがいた。バト○ドームも驚く超エキサイティングしていて、かなり怖かった。

放課後、風紀委員と協力して、各クラスや個人の卒パの出し物の進捗状況などを見廻りついでに調べた。しかし、ああなるとは僕も想像していなかったなぁ...


(side:リアル)

朝。非常に気分が重い。推しキャラの完凸で満足しておけばと後悔している。この後悔のまま、学校に行くのは嫌だなと思うが、学校は行かないといけない。


「仕方がない。軽くジョギングしよっか」


僕はパジャマからジャージに着替えて外の空気を吸う。まだ薄暗い早朝。冷たい空気が肺を満たす。キッチリと準備運動をして走り始める。しばらく走っていると徐々に気分が良くなってくる。僕は走り終わり、体を伸ばしてストレッチをして家に戻り、シャワーを浴びる。スッキリした僕は朝御飯を作り身支度をして学校に向かう。そして、いつも通り篤人と合流して学校に向かう。


「春、今日は花園を興奮させないように気を付けろよ?」


「それは僕の台詞だよ。ま、お互い気を付けるで良いんじゃない?」


「それが一番だなー」


僕らは金曜日の反省をしつつ、バレンタインで貰ったチョコ談議をしながら教室に向かうと少し様子がおかしいことに気づいた。


「お、どうした、皆?」


篤人が教室に入ろうとしないクラスメイトに聞くと無言で教室のとある席を指さす。


「うはー尊い尊いよ!!」


超エキサイティングな花園さんが既にいた。説明を求めるように周囲に視線を向けると、クラスメイト達は全員揃って首を横に振る。触らぬ神に祟りなしとはこの事かと思ってしまった。しばらく様子見をして、他のクラスメイトが情報収集をして皆で結論を出した。どうやら、通学途中に素晴らしい薔薇が咲き乱れているところを目撃してテンションが上がりに上がったようだ。何でも通学路で、この学校でも有名なとあるカップルを見て膝立ちでコロンビアポーズをして、その後、爆走した女子生徒がいたと噂がある。十中八九、花園さんだろう。それ以外にいてもある意味怖い。謎で理由の分からないテンションが理由ありのテンションだと分かり、僕もクラスメイトも安堵の表情で各々の机に向かっていった。結局、一時間目の教師が雷を落とすことで、花園さんは落ち着いたものの、何故か凄く綺麗に微笑む表情をしていた。


今日の授業が終わり放課後。僕は金曜と同じく生徒会室に向かった。

生徒会室には会長と風紀委員長が話し合いをしていた。


「春希君か。うーん...」


今、僕に声をかけた人が二年で風紀委員長を務める柊 冬華(ひいらぎ とうか)先輩、その人である。


「よし、夏奈君も連れていこう。書記の仕事の一環にイベント事のクラス視察もあるだろう?なら、春希君には仕事、夏奈君には実地研修だ。春希君は書記の先輩として頑張らないとな」


そう言って、冬華先輩は僕の背中を叩く。他の面々が集まるまで卒パの段取りや推定の流れを調整していく。夏奈が来たときに、冬華先輩が実地研修と言うことで、風紀委員と合同視察の説明をしていた。そうこうしているうちに全員が集合したので、引継ぎに関するあれこれが終わらせたら、集合場所に向かうと伝えた。視察のこともあるので、引継ぎ関連は30分で済ますこととする。今日は生徒会の広報に関することにしよう。まぁ、生徒会広報は半月から1ヶ月に一回のペースで出している新聞のような物だ。新聞部とは違ってクオリティーも分量もそこまで重視していないし、大体はA4サイズで配られるお知らせのような物だ。僕はお知らせ的な感じで作っている。ただ、昔は新聞部と勝負するぐらいのクオリティーと分量を持った最早新聞と言っても過言ではないお知らせを作る先輩もいたらしい。まぁ、別に僕たちがそこまでする必要はないから、変なことを書かない限りは自由だとは伝えたが、夏奈はその昔の先輩のに興味を示しているようだった。薮蛇だったかもしれない。


「まぁ、広報に関してはこれぐらいかな。そろそろ卒パの出し物の視察に向かうよ?」


「オッケーだよ、ハルハル」


僕たちは生徒会室のその他面々に卒パの出し物視察に行くと伝えて、夏奈と一緒に生徒指導室に向かう。扉をノックすると入室許可が出たので入ってみると左右に男女で分かれて整列する生徒の姿。そして、中央の椅子にゲン○ーポーズで座り、こちらを見てくる生徒指導室の主と秘書のように傍に立つ冬華先輩がいた。


「よく来てくれた、四月朔日と河村...呼ばれた理由は分かっているな?」


謎の威厳たっぷりな雰囲気を醸し出すこの部屋の主。その姿に僕は...


「時間も時間ですから、早めに視察の話をしませんか?」


空気を壊すこととした。そんな僕に夏奈は『(´・ω・`)』みたいな顔をしたが、この卒パの視察こそがヤバイ。何故なら、卒業生の記憶に残るようなイベントにしようと年々凄い出し物をしようと企む生徒がいるからだ。特に今年は陽葵先輩が卒業だ。後輩たちにとっては頼りになるカリスマ的先輩。過去の例と照らし合わせるとそういう先輩が卒業する年の卒パは視察側が地獄だ。何故なら、こっそりと過激にフィーバーしたがるからだ。最後の最後にカリスマ的先輩の記憶に残ろうとするのが目的らしい。


「四月朔日の言うことも妥当だな。全員、よく聞きなさい」


生徒指導室の主で風紀委員の顧問をしている体育教師の早川 勲(はやかわ いさお)先生は先程の雰囲気を消し去り、風紀委員の顧問として話し始めた。自然と冬華先輩も含めて態度が風化委員のものとなる。


「お祭り騒ぎは結構なことだ。この学校らしく卒業していく生徒達に最後まで笑って卒業して貰おうではないか。しかし、やり過ぎると怪我をする生徒も出るだろう。過激さを求めて風紀的に問題行動をする生徒も出るだろう。我々のすべきことは、楽しく笑って終われる卒パだ。各位、クラス出店や個人出店のリストには目を通しているな?一応、網羅しているものも用意しているから、各自持っていくように」


そこまで言って、続きを冬華先輩に促す。


「それでは事前に決めた班での行動を。一班と二班は一年校舎を。三班と四班は二年校舎を。五班と生徒会の二人には風紀委員長の私と来てくれ。では、視察を開始する!」


そう言って、一部の風紀委員を残して部屋から出ていく。残ったメンツに対して冬華先輩は神妙な顔を作る。何となく...いや、これまでに挙げていなかった出店箇所について察する。


「はい、冬ちゃん先輩!」


「何かな、夏奈君?」


「私たちの担当はどこですか?」


僕と夏奈以外は事前に聞いていたのか無表情をしている。僕は察しているため嫌そうな顔になっているのだろう。そう、僕たちの担当とは...


「個人出店だ」


この学校の中でも個性的な生徒がはっちゃける混沌の個人出店(一部は部活として)。それが僕たちに割り振られた視察箇所だ。ここからは思い出したくもない。


(以下企画抜粋)

・自転車部

先輩達に未来へと駆け抜けて貰うため河川敷で競技用自転車に乗って貰います。希望者の方には特別な自転車も披露します。


・漫画研究部

先輩方の行事を漫画化しました。漫研部だった三年の先輩方も手伝ってくれました。


・映画研究部

三年生の先輩方の主演で卒業公演の作品です。


・雛森 鈴鹿(ひなもり すずか)(二年)

茶道室でお茶を点てます。ゆっくりしていただけたら幸いです。


・早川 昇(はやかわ のぼる) (一年)

科学室で銀鏡反応を利用したオリジナルの鏡作成を体験して貰います。


・家庭科部

今回は料理をメインでやります。一人暮らしを予定している先輩にとって気軽に作れる物を予定しています。


・料理研究部

楽しく料理を学べる出し物予定。


他にもあるが、本当に個人で色々と出せるものだと、ある意味感動してしまう。しかし、『ここ』から視察をしなければならない。そして、間違いなく懲りずに例年通りの出店でもある。ある意味、手を変え品を変えだが、最初に視察する所は決まっている。最初の視察は自転車部。伝統だから、ある意味知っている。企画内容はフェイクだと。


「はい、自転車部!卒パの出し物の視察に来たよ。隠しているものはないかい?」


冬華先輩が突撃すると余裕そうな表情をした自転車部の部長がいた。


「まぁ、今回の目玉は競技用自転車で走って貰う事だからな。隠すものもないさ、柊」


そう言われて、手元の出店リストを見る冬華先輩。


「それなら、特別な自転車とやらも見せて貰おう」


自転車部の部長はニヤリと笑い見せてくるのは電動自転車。


「今回の真の目玉は、この電動自転車だ。こいつは充電器での充電が基本だが、太陽光発電での充電が出来るのだ。そして、携帯のピンチの時にはUSBの差し口があるから、ここに充電ケーブルを差して携帯の充電だって出来る最新作さ」


そう言って実際に携帯の充電をしており、風紀委員のメンバーもどよめく。


「...自転車部の空飛ぶ自転車計画は止めたのか?」


「ま、いい加減、現実を見ないとな...空を飛ぶのは未来の連中に任せるさ」


そう言って、爽やかな笑顔をする自転車部の部長。念のため、自転車部の倉庫を見るが、空飛ぶ自転車計画に使われそうな物はない。今年の自転車部は問題なしと結論付けようとした。しかし、この部屋に普段なら居ない二人の人物がいた。僕と同じクラスメイトでロボット研究部の山野 勇樹(やまの ゆうき)と帆船部の穂積 海(ほづみ かい)の姿だ。山野君については電動自転車の方の協力者だろうが、穂積君の方が分からない。僕は深く深く考えると一昨年の記録を思い出す。それは帆船部との共同『ベルヌーイの定理を利用した空飛ぶ自転車計画』だ。卒パの前日にギリギリで摘発出来た過去史上、最も摘発の難しかった一件と聞いたことがある。


「冬華先輩、ストップです。帆船部の部員がいます!」


僕は慌てて止めると、自転車部の部長が汗をかき始めた。冬華先輩も一昨年の一件を思い出したのか、その場にいた風紀委員のメンバーに帆船部の部室に向かうように指示をする。


「さて、帆船部の人間がいる理由を聞こうか?」


自転車部の部長は...また余裕そうな表情に戻って、普通に受け答えを始めた。


「定期的な交流だよ。未来への投資ってやつさ」


一瞬、汗をかき始めた人間とは思えないぐらいスラスラと話し始めた。僕はまさかと思い、この場に残っている風紀委員のメンバーに声をかけて外に出る。目的地はロボット研究部だ。


「生徒会です。中を検めさせてください」


そういうと観念した様子で部室内に入らせて貰えた。どうやら、自転車部・帆船部・ロボット研究部の共同企画で空飛ぶ自転車を企画したようだ。僕は企画書を持って戻り、見せつけると自転車部の部長は膝をついて項垂れた。どうやら、例年通り、空飛ぶ自転車を企画していたと自白をした。そういうわけで、自転車部の出店は競技用自転車体験と電動自転車のプレゼンと言うことになった。これでも十分に凄いとは思うが。

自転車部で時間が掛かったため、後日に視察するところが出るが、今日で終わらせる必要はなく、何日にも分けてやるということだけは夏奈にも改めて伝える。


「まぁ、これが続くって考えると今日では終わらないよね」


そう言って、笑っていた。今日回った場所は自転車部以外は問題なさそうだ。そんなわけで、今日は解散となった。携帯を見ると、どうやら篤人は早めに部活が終わったのか先に帰ったらしい。夏奈と帰ることになったので、視察する際の注意事項などを話し合って分かれた。

文化祭の視察も大変だったが、卒パの視察はそれ以上に大変と聞いていたが、相当濃い1日だった。今日は疲れたので宿題をしたらさっさと寝よう、そうしよう。


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