第002話 終わりと始まりのその狭間
(side:日記)
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昨日告白されたことでギクシャクするかなと不安になったが、何て事はなかった。普段通りで安心した。
今日はクラス委員の仕事はないが、生徒会の仕事だ。来年度に向けての引き継ぎとかがあるので、今日は遅くなった。今日も今日とてソシャゲのイベント周回が出来なかった。今回のイベントのキャラ好きなのに完凸出来ないとか推し活に支障が出る。土日は特に集中してやろう。
(side:リアル)
昨日の告白の事があっても、別れ際には問題はなかったが、やっぱり不安は残る。それでも僕はいつもの時間にいつも通りに学校に向かう。だからだろうか、いつもと変わらない君がいるのにはホッとした。
「篤人、おはよ」
「おう、春」
そして、僕らはいつも通りに学校に向かう。僕は昨日はふて寝していたので食べていないが、篤人は昨日貰って食べたチョコの一部を僕相手にレビューしていた。このチョコ好きな面はサッカー部のレギュラーや僕のような一部の友人しか知らない。厳密に言えば、隠してはないがオタク的な早口でレビューする相手が少ないだけだ。僕達は他愛もない話をして学校に向かう。
昼休みが終わり、最初の授業。僕の席は南の窓際。何が言いたいか...凄く眠いのだ。この丁度良い日射しと満腹感に頭の回転は鈍くなる。そして...チャイムの音に授業の終わりを知る。あんな状態でも体は勝手に板書をノートに写していたようだ。ホッとため息を吐くと篤人はニヤニヤしながら近づいてきた。
「よ、居眠り魔!」
「ちゃんとノートは取ってるし」
「でも、寝てただろ?」
僕はからかわれたので軽く脛を蹴る。急所に当たったかのように痛がっている。スゴい顔をして脛を押さえる篤人への溜飲が下がる。
「な、何するんだ!?」
「僕をからかって楽しもうとした罰だよ」
そう言って、顔を背けてすまし顔で外を眺める。今日も空が青い。そんなことをしていると復活したのか僕の頬を摘まんでくる。
「ひょ、にゃにひゅるんだよ(ちょ、何するんだよ)!?」
「お前がそんなすまし顔で逃げようとするからだろ」
そうやって篤人と絡んでいると隣の席からの熱視線。花園 百合佳(はなぞの ゆりか)。そんな彼女は親指をグッと立てて、にこやかに言い放つ。
「ナイス、てぇてぇ。頂戴しましたっ!」
そう言って、スケッチブックを取り出し、イラストを書き始める。僕と篤人はやらかしたという表情になる。ちなみに、その他のクラスメイトは安堵と共に今日の被害者を憐れむ視線を忘れない。でも僕達はそれを非難出来ない。何故なら僕達も同じ立場なら被害者を憐れむ視線を送るに決まっているからだ。こうして今日の最後の授業は花園さんがイラスト製作を止めないことに対して、叱る所から始まったのだった。
魔の一時間が終わって放課後。早速、生徒会室に訪れる。そこにいたのは今年度後期生徒会メンバーとそれを引き継ぐ来年度前期生徒会メンバーだ。一応、僕は今年度は書記として、来年度は生徒会の副会長としての立場がある。今年度の副会長の働きとかも見ているため特に引き継ぎのために聞かなければならないことは少ないため、来年度の書記のためにアレコレする時間を多く割くことが出来る。
「ハルハルー...この書類って片付ける場所ってここ?」
そう聞いてくるのは来年度の書記で、隣のクラスの河村 夏奈(かわむら なな)。ハルハルとは夏奈の中等部の頃から呼んでくる渾名だ。
「君たちは君たちで仲が良いよね」
そう言ってくるのは今年卒業するはずなのに、最後の最後までこの学校を楽しもうとする三年生にして生徒会長の小鳥遊 陽葵(たかなし ひなた)先輩。
「騒がしいのは結構だが、手は動かしなよ、四月朔日春希に河村夏奈」
メガネくいっをしながら言ってくるのは現生徒会副会長で次期会長の田中 祐一(たなか ゆういち)先輩だ。生徒会長の仕事の量に辟易とした表情をしているが、今の空気は嫌いではないらしい。
他の面々も温かい視線を送ってくる。僕達はその視線を無視して続きをやっていく。そんな引き継ぎ回りは一旦終了して、一番近くで行われる催しについて...つまりは卒業パーティだ。文化祭などと同じように学校全体として行われる催しで、中等部と高等部の三年生以外が準備をして三年生を見送るためのイベントだ。中等部の生徒はそのまま高等部に上がる生徒が多いため、純粋に楽しむ者も多いが、やはり他の学校に行く生徒もいるので、最後の最後に笑って楽しく卒業が出来るのが嬉しいと評判である(稀にホームシックが如く他校へ移るのを止めたがる生徒も一定数いる)。その評価は高等部を卒業するほとんどの生徒もそう思って卒業するらしい。さて、この卒業パーティの準備は小規模なら2月の頭から始めているクラスもあるため、既に生徒会と風紀委員による見廻りの対象である。とは言え、生徒会は書類などの運営を担当し、風紀委員は現場の見廻りを担当している完全な分業制だ。各クラスの出し物は決まっているため、それを逸脱しないかどうかをクラス単位で確認するだけなので、文化祭よりも仕事量は少ない。そんなわけで、文化祭の時には書記だった僕は夏奈に当時の作業記録と共に生徒会としての仕事の役割を説明していく。
「さて、そろそろ良い時間だね」
そんな陽葵先輩の声に外を見ると暗くなっていた。時間も時間なので、帰り支度をして夏奈と一緒に玄関まで行く。そして、校門まで行くと肩を叩いてくる存在がいた。
「よっと、お疲れさん」
「ん、ありがと、篤人」
「ありゃ、あっくんじゃん。あっくんもお疲れ様じゃない?」
「よぉ、夏奈。お前も一緒だったか。いや、生徒会で一緒なんだから別々で出ることもなかったな。それなら、夏奈もお疲れさん、だ」
「おつありー」
そう言って、中等部の頃はよく一緒に帰っていた三人組となった。あの頃と変わらない他愛もない話をして、最初に別れるのは夏奈。いつも通りの別れの挨拶をして、僕達は帰り道を進む。
「それじゃ、次は月曜だな」
「うん、また月曜、篤人」
そして、帰宅した僕は晩御飯を作り、バレンタインで貰ったチョコをツマミに宿題を片付けて今日も無事に終わる。
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