【KAC2023お題全部】"いいわけ"だらけの異世界転生

緋色 刹那

第一話「◯◯に異世界転生」

 伊井湧いいわけユウは死亡した。

 しかも、なかなかトンチキな死に方だった。

 深夜の散歩中に訪れた本屋から出てきたところで、ぬいぐるみを抱えた筋肉マッチョに撥ねられたのだ。アメフトの強化選手で、ぬいぐるみをボールに見立てて、ダッシュの練習をしていたらしい。

 ユウは巨大な「7」のオブジェまで吹っ飛ばされ、後頭部を強打した。マッチョは大した怪我ではないと判断したのか、

「HAHAHA! すまなかったな、貧弱ボーイ! 俺に吹っ飛ばされない、強い体になって出直してきたまえ!」

 と笑いながら走り去っていった。

 なけなしのプライドすらもぐちゃぐちゃに叩き潰され、ユウは呆然とした。

 遠ざかる意識の中、今朝テレビで見た占いを思い出した。

「そういえば、今日のアンラッキーナンバー……7だったな」




 気がつくと、ユウは不思議な空間で倒れていた。本屋、古雑貨屋、研究所、夜の街、ジム、七つの部屋につながっている怪しげな洋館……と、景色が目まぐるしく変化する。

 そばには金髪、ピンク目、白スーツの女がユウを見下ろし、ニンマリと笑っていた。

「おめでとうございます! 貴方は世界を救う、勇者に選ばれました! ご希望の転生プランがございますか?」

 どうやら、ユウは転生者に選ばれたらしい。ユウは異世界転生もののラノベをよく読んでいたので、そのへんの予備知識はあった。

 ユウは女神に提示された三つの候補から、「隠れチート底辺勇者」を希望した。ドン底から這い上がって、凡人のザコ共をざまぁしてやろうと企んでいた。

「了解しました! それでは、いってらっしゃいませ!」

 再度、意識を失う。

 目が覚めると、ユウは森の中で倒れていた。周りにあるのは木、木、木……人どころか、モンスターの気配すらない。鮮やかなオレンジ色の小鳥がさえずっている。

 ユウは首を傾げた。

(おかしい……こんな何もない森からのスタートなんて変じゃないか? フツー、はじまりの村で目覚めるとか、イベントが起こるとかあっていい気がするが。それとも、すでにパーティから追放されたあとなのか?)

 情報を求め、持ち物を調べる。手ぶらで、武器も道具も持っていない。それどころか、

 今まで気がつかなかったが、ユウは全身毛むくじゃらだった。その上、嗅ぎ慣れない獣臭までした。

「ぼ、ボフ?!」

 ユウは驚き、声を上げる。

 異様に野太い声だった。言葉を発そうとするが、ボフボフとしか出てこない。

(俺の体、どうなってるんだ?!)

 ユウは慌てて、近くを流れる小川へ走った。

 川を覗き、水面に顔を映す。そこには、変わり果てたユウの顔があった。

「ぼ……ボフゥゥゥー!!!」

(俺……クマになってるぅぅぅー!!!)


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る