第60話 里の正体と答え

 「フェンリルの里を、お主の住む場所と繋げてもよろしいか」

「!?」


 里長さんからの突然の提案。

 訳が分からず、俺は思わず聞き返していた。


「つ、つなげるってどういうことですか……?」

「そのままの意味じゃよ」


 里長さんは里の入口方面を指した。


「あそこより外に出れば、そこはただの森の中じゃろう?」

「は、はい」


 改めてこの里への入り方を思い浮かべる。


 フェンリルの里は「秘境」のようになっており、『地獄谷』森林部のとある木と木の間を抜けた先に広がっている。

 森の中からは里内が見えることがないのに、木の間を通過すれば里の入口。

 なんとも不思議な出入り口なのだ。


「それと同じように、お主の住む場所と繋げる」

「い、いやいやっ!」


 俺は手を横に振った。


「だから、そこが分からないんですよ!」

『そういうことかよ』

「え?」


 と思ったら、聞こえてきたのはえりとの声。

 あ、まだいたんだ。


『てめえ、今失礼なこと考えたな』

「……全然」

『まあいい。音声をスピーカーにしてくれ。里長さんと話す』

「お、おう」


 俺は耳元から通信機器を離して、里長さんの前にやった。

 こういう難しい話をする時はこいつだ。

 もう全部任せてしまおう。


『よう、俺はえりと。話の続きを聞かせてくれ』

「ほう」


 えりとに里長さんが応える。

 里長さんを前にしても「オッス、オラ〇空」ぐらいのノリだ。

 この辺は相変わらずというか、さすがと言わざるを得ない。


「ここまで辿り着いたのは中々のものだと思ったが、やはり優秀なバックがおったか」

『いやー、やすひろだけじゃ無理でしょう』

「ほっほ。そうじゃな」

「同意しちゃうんですか!?」


 ゆっくりと頷いた里長さん。

 これには割とショックだ。


『で、本題だが』

「ふむ」


 両者、雰囲気が変わる。

 ここからは真剣に聞こう。


『ここは、独立した空間・・・・・・だと捉えていいのか』

「その通りじゃ」


 二人の間で話が進む。

 難しいけど、えりとの仮説は合っていたらしい。

 もう口を挟まず、聞き専に回ることにした。


「この里はどこでもない・・・・・・場所。異空間にできた里じゃ。それを『地獄谷』に繋いでおるに過ぎん」

『里自体が、“小さい異世界”ってことだよな』

「そうじゃ、そうじゃ」


 えりとの解説で少し理解できる。


 『地下の扉を開けたら異世界』なんて物語があるけど、それに近いのかもしれない。

 今回は、それが「里」っていう小さい規模だっただけで。


 この里は『地獄谷』の中に存在するのではなくて、『地獄谷』のあの木の間から侵入できる、みたいなイメージだと思う。


『んで、今までも何度か入口を変えてきたんだろ。里外へ食料なども調達する必要があるしな』

「その通り」

『そして、その入口は決まって世界各地の最難関ダンジョンの最下層付近に繋げたと』

「ふむ。本当に話が良く分かる男じゃな」


 えりとが自分の仮説を確かめるように進める。


 フェンリルの情報で、「最難関ダンジョンの最下層で数件確認されている」とあった。

 それは、『地獄谷』じゃない場所へ入口を繋げ、そこから里外へ出た時の痕跡こんせきだったのか。


「今まで何度か入口を変えてきた。生態系をおびやかさず、わしらものんびりと暮らせる入口を」

『なるほど。そういう配慮だったか』


 以前、『はじまりの草原』でフクマロが遠吠えを上げた時、危うく生態系をめちゃくちゃにしかけた事があった。

 そうならないよう、強い魔物しかいない最難関ダンジョンに入口を繋げている、ということか。


 すごいぞ俺、話に付いていけている!


『で、安寧の地を求め続けた里長さんが最後に辿り着いた場所というのが……』

「うむ。やすひろ殿の住む場所じゃ」

「そういうことかあ……って、ええー!?」


 そして、ようやく理解に至りました。


「それって一緒に住むってことですよね?」

「正確には、やすひろ殿の近くに引っ越す、の方が正しいかの」

「な、なるほどー」


 すごく突然の話に驚いてしまう。


「でも、どうしていきなりそんな話に?」

「わしらが望むものは二つ・・。まずは平和じゃ。やすひろ殿となら実現できるであろう」


 そんなに信頼されていたのか、俺。


「それともう一つは、食料」

「食料? それならたくさんあるのでは」

「いや、情けない話じゃが……」

「ん?」


 里長さんは、フェンリル達の方を向いた。


「みなが『王種』を相当に気に入ってしまったようでな」

「……え、ええー!?」


 そこには、たくさんのフェンリルが引き続きカレーをむさぼる様子が。


「「「ウォフウォフウォフウォフ!」」」

「めっちゃ食ってるー!」


 もちろん嬉しい……けど、まさかここまでとは。

 いや、驚くべきことは、さらにその奥。


「キュッルッル」

「プックック」


 自分達の物だからといって、自慢げに『王種』野菜を持っているのは、ココアとタンポポ。


「ウォフ……」

「クゥン……」

 

 それを羨ましそうに見つめるフェンリル達。


「キュル!」

「プク!」


 そして、キリッとした目で二匹が「あれを!」と要求した。

 駆け寄ってきたフェンリル達が行ったのは……


「「「クゥ〜ン! クゥ〜ン!!」」」


「キュルー!」

「プクー!」


 高い高い胴上げだ。

 フェンリル達の力を持ってすれば、二匹はめちゃくちゃ高く舞い上がる。


「キュルル〜」

「プク〜」


 しかも、その褒美だと言わんばかりに、空中から『王種』野菜をちぎっては下に放る。

 フェンリル達はそれを口を開けて食べている。

 まるで金持ちが金をバラいている図みたいだ。


「何やってんだあいつら……」

「ほっほ。愉快な者達じゃわい」

『ただの悪ガキだろ』


 思わず頭を抱えてしまう行動だ。

 帰ったらお説教……はできないなあ、俺には。

 魔物だから許してやるか。

 

「とにかくそういうことなのじゃ。もちろん力にはなる。人手としてはこれ以上ないであろう」

『やすひろ。あれのチャンスじゃないか』

「あー、畑の話?」


 前に、えりとと畑をもっと増やそうという話をしていた。

 単純に『王種』野菜をもっと耕せたらもっと食べられるし、売り始めたら……もうウハウハだ。


 でも、結局人手が足りなくてやめた。

 配信に集中したかったしな。


「それに、彼らも力になってくれよう」


 里長さんが振り向いた方向には、スライムさん。


「うん! なんでも力になるよ!」

「あ〜」


 ぽよちゃんと同じ種族である、スライムさん達インフィニティスライム。

 ぽよちゃんの有能さを考えれば、手伝ってくれるなら本当に色々と助かるだろう。


「どうじゃろうか。やすひろ殿」

「やすひろくん!」

『やすひろ』

「やすひろさん!」


 里長さん、スライムさん、えりと、美月ちゃんがぐいぐいと迫ってくる。

 こんなの誘導尋問じゃないか。


「……」


 でも、舐めてもらっちゃ困る。

 そんなの最初から・・・・答えは決まってた。


「もちろんです! 一緒に暮らしましょう!」


 俺は里長さんの話を快諾かいだくした。

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