第47話 「団らん」と「まずい状況」

 「ふい~、疲れた~」

「今日はこの辺で野営ですかね」


 先ほど配信を終えたところで、一息つく。

 辺りもすっかり暗くなってきて、これ以上の探索は危険との判断だ。


「本当にこの道で合ってる?」

『ああ、間違いない』


 変わらずサポートしてくれているのは、えりと。

 

『草のちょっとした踏み跡、魔物の出現具合……。間違いなくフェンリルはこの先を進んでる』

「ふーん。とにかく助かるよ! めちゃくちゃ!」

『よし、今日も理解度はゼロだな』


 えりとは複数の小型ドローンを遠隔操作して、フェンリルの跡を追ってくれている。


 試練的なものだとフクマロは言っていたし、あのフェンリルはいちいち待ってはくれない。

 えりとがいなければ、とっくに道を見失っていただろう。


『とにかく今日はここまでだ。しっかり体を休めろ』

「了解」


 通信を切り、野営の準備を進めるペット達を手伝いにいく。


「みんなは大丈夫か?」

「ワフッ!」

「ムニャッ!」

 

 まだまだ元気そうな声を上げるペット達。

 さすがにタフだな。


「ごめんな。これ以上は俺や美月ちゃんが厳しい。また交代で見張りを頼んでもいいか?」

「キュル!」

「プクー!」

「ははっ、ありがとうな」


 頼られるのが嬉しそうなみんなを順番にでた。

 こんな危険な場所に潜られるのも、みんなのおかげだ。

 感謝しないとな。


「やすひろさん。こっちはできましたよー」

「りょかーい。って、ええ!?」


 美月ちゃんの方を振り返ると、驚くべき光景が。

 なんと、仮眠のためのテントが一つ・・しかないのだ。


「えと、どうしてテントが一つ……?」

「いざという時、お互いに連携を取れた方が良いと思いまして!」

「いや、それに越したことはないけど!」


 だからって、さすがにこの状況をまずいんじゃないか!?


 相手は年下の女の子。

 しかもアイドルダンジョン配信者だ。

 色々と問題がある気がする。


 というより!

 

「美月ちゃんはいいの!?」

「ここはダンジョンですよ! 何よりも安全を優先すべきです!」

「それはっ、そうだけど……!」


 かなりの正論を言われて言い返せない。


 いやいや!

 それでも、そういう問題じゃないだろ!


「ダンジョンでは一分一秒が死に繋がるんです!」

「くっ……」


 だがやはり、叩きつけられるのは正論。

 そうして結局、俺たちは同じテントで夜を過ごすことに。





 野営の準備が終わった頃。


「ぽよ~!」

「おお、すごい!」


 今はテントの前で火をき、夕食を作っているところだ。

 ぽよちゃんが火を吹く能力を持っていたことで、火は簡単に点けることが出来た。


「そろそろじゃないですか!」

「そ、そうだね!」


 シャワーを浴びて軽装になった美月ちゃん。

 目のやり場に困りながら返事をする。


 ちなみにシャワーの水源も、ぽよちゃんだ。


 美月ちゃんと会っていない間も、彼女とダンジョンに潜っていたようで、今ではかなりたくさんの能力を持っている。

 ぽよちゃんのおかげで、随分と野営の生活レベルが上がった。


「そろそろ開けるよ」

「はい!」

 

 そうして、頃合いを見て釜のふたを開ける。

 少し寒めのこの環境に合わせて、作っていたのはシチューだ。


「おおー!」

「ふわあ……!」

 

 蓋を開けた瞬間、もくもくと湯気が上がる。

 同時に、食欲をそそるとても良い匂いがただよった。


 あらかじめ持ってきていた『王種』野菜に、途中に討伐した『デリシャスバート』の鶏肉などを使ったシチューだ。

 とても野営で食べる物とは思えない。


「ぽよー!」

「ムニャア!」


 順に皿に分けていくと、ペット達も大喜び。

 いつも通り……いや、むしろいつものご飯より豪華なんじゃないか?

 そう思うと、俺の手も止まらなかった。


「あ、あふっ!」

「やすひろさん、ゆっくりですよ」

「う、うん。でも美味ーい!」


 ちょっと舌を火傷した気もするけど、しっかり味わうことが出来た。


「本当です! すっごく美味しいです!」

「それは良かった」


 続けて口に運んだ美月ちゃんも喜んでくれた。

 下準備をしてきて正解だったな。


 それにしても、『王種』野菜と混ぜても味をしっかり出す鶏肉とは。

 さすが日本最難関ダンジョンの魔物。

 美味しさのレベルも相当高い。


「すみません、わたしももうちょっと何か役に立てたら良いんですけど……」

「いやいや。こうやって話し相手がいるのは嬉しいし頼もしいよ」

「そうですか?」

「もちろん!」


 これは本音だ。

 人がもう一人いるのといないのじゃ、心強さが全然違う。


「それにぽよちゃんも頼りになるしな!」

「ぽよっ!」


 火やシャワー、昼間の大活躍など。

 本当に来てくれて良かったと思っている。

 

 ペット達に美月ちゃん。

 みんなで食事をしていると、時間もあっという間に過ぎていった。

 こんなに温かな食事になるとは思わなかったな。





 だが、


「では、そろそろテントで横になりましょう。明日も早いですよ」

「……はっ! う、うん!」


 食事を終えたので、必然的にそうなる。

 考えないようにしていたけど、いざこうなると心臓がバクバクしてきた。


 って、何を考えているんだ!

 俺が手を出さなければそれだけで済むんだ!

 美月ちゃんの言う通り、すぐに寝よう!


「やすひろさん?」

「い、今行くよ!」


 電動歯ブラシはいつもより長めにした。

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