第21話 まさかのお約束?

<やすひろ視点>


「まだまだいくぞー!」

「ワフッ!」

「ニャフゥ!」


 今回初めて来たダンジョン『まあまあの密林』。

 ここでもやはり、フクマロとモンブランは強い。


「ギャギャッ!」

 

 現れたのはトカゲ型の魔物『リザードマン』。

 この密林には多く生息しているようで、今日は何度も遭遇そうぐうしている。


 さっき図鑑で確認した戦闘力はC。

 『はじまりの草原』には中々いない強さだが……


「フクマロ! 君に決め──」

「ガオォッ!」

「ギョエー!」


 俺が言う前に瞬殺。

 二匹は敵対してくる魔物には容赦ようしゃがない。

 決めセリフすら言わせてくれません。


《無双してるなあw》

《さすが最強種族》

《モンブランも負けてないよね》

《二人とも大活躍!》

《こりゃ勝てんw》

《お洋服も可愛い!!》

《癒しぃ》

《可愛くて浄化されてく……》


 コメント欄は二匹ついて盛り上がっている。


 相変わらずお洋服も大好評だ。


 フクマロの『茶色の毛皮のお洋服』、モンブランの『法被はっぴのお洋服』。

 二匹ともおめかしをして、いつもより張り切っているようにも見える。


 まじ超可愛い。

 親バカのお世辞抜きでな。


 そして、今日は違ったコメントもチラホラ。

 今までに見られなかったコメントだ。


《やすひろめっちゃ頑張ってね?w》

《疲れないの?w》

《二匹に振り回されなくなってきてるww》

《動き俊敏で草》

《けっこうな重装備に見えるけど》

《日頃の成果出てきてるかも》


「え、やっぱりですか!」


 俺のことについてだ。

 実は、ちょうど自分でも成長を感じていたところだった。


 最強のペット二匹を連れてダンジョンに潜れば、一般探索者よりも何倍も効率よく魔石が集まる。


 大半は売却して金に換えているけど、これまで少しずつ自分にも使ってきていた。

 新天地ということもあって、その成果が顕著けんちょに表れている気がする。


《やすひろ最強伝説始まる?w》

《ちょっとワクワクしてきた》

《確かに魔石は集まりやすいもんな》

《最強ペットの恩恵がここにもw》

《やすひろ、お前がNO.1だ》

《君はヒーローになれる》


「いやいや、俺なんて~……」


 俺はスローライフができればいい。

 俺自身が最強は特に目指していない。


 ……とは思いつつも、やっぱり少し興味はある。

 “最強” の文字を見てワクワクしない男はいない。


 お金にも余裕が出てきたし、魔石の売却と使用の割合を考え直してもいいかも。

 そうすれば俺もさらに強くなれそう。


「んまあ~、その辺もボチボチやっていってもいいですけどねえ~」


 興味が湧いている事を隠しながら返した。

 自分でツッコみたくなるほど隠せていないけど。

 

《ちょっとその気になってんじゃねえかw》

《興味津々で草》

《いいぞ~w》 

《応援してます!笑》

《いつか二匹と戦ってほしい》

《↑さすがにそれは無理だろw》

《探索者だけど普通にうらやま》

《本業より魔石稼げるのずるい!w》


「そんなことないですよ、も~」


 ニヤニヤをなんとか誤魔化ごまかしながら、今日はきりの良い所で引き返した。

 

「ワフゥ……」

「ニャフゥ……」


 二匹はちょっとあきれていた。





「ではまた次回お会いしましょう!」


 入口まで戻ってきて配信を閉じる。


 新たなダンジョンでドキドキしたけど、意外といけそうだったな。

 それに「俺自身が最強」という新たな可能性も見えた。


 次はボスを目指して探索してみようかな。

 とにかく、今後しばらくは『まあまあの密林』をメインにしていこう。


 そうして帰ろうとした時、


「ん」


 着信が来ていることに気づく。


 相手は……お、美月ちゃん!

 メッセージじゃなくて通話なんて珍しいな。


「もしもし」

『やすひろさん! お疲れのところすみません! でも大変なんです!』


 この口ぶりは配信を見てくれていたのかな。

 だけど何やら慌てている様子。


「大丈夫だよ。とりあえず一旦落ち着いて」

『は、はい! そうですね!』


 美月ちゃんは通話の向こうで深呼吸をした。


『それで大変なんです! ぽよちゃんが!』

「……!」


 深呼吸の意味ねえ!

 とツッコみたかったが、どうやら本当に焦っているらしい。


「わかった。俺にできることってあるかな」

『家に来てほしいです! えりとさんも一緒に!』

「!?」


 なにい!?

 美月ちゃんの家だって!?


「おちおつおち、おち、落ち着いて美月ちゃん!」

 

 その言葉で俺が落ち着きを失くした。


『やすひろさんこそ! それとも忙しかったでしょうか』

「そんなことはないけど」

『それならどうかお願いします! 失礼します!』

「あ」


 そうして通話は切れた。

 さらに、すぐに個人メッセージに位置情報が送られてくる。


 えぇ、こんなにホイホイ送っていいのか。

 てか東京の一等地じゃん。


 予定的な問題はないけど、心の準備が……。


 いや、でも焦っていたしな!

 頼ってくれたなら力になりたい!

 

 すぐさまえりとに連絡し、彼女の家に向かった。







「ここだよな……」

「そのはずだ」


 東京の一等地に建つ、お城みたいな白い家。

 敷地内外を仕切る門なんて初めてだぞ。


 あまりのすごさに圧倒されていたが、今はそんな場合じゃない。

 門の外にあるチャイムを鳴らすと「今開けます」と美月ちゃんの声が聞こえた。


「本当にこんなとこあるんだなあ」

「このレベルは俺もさすがに初めてだ」


 あのえりとですら初めてらしい。

 世界は広いな。


 そうして、花畑のお庭を進むと玄関が開く。

 様子を見ていたのだろうか。


「こんばんは! 急ですみません! 本当にありがとうございます!」

「……!」


 出てきたのはパジャマ姿の美月ちゃん。

 薄ピンク色の宇宙みたいな柄だ。

 俺には中々刺激が強い。


「こちらです!」


 案内されるがまま、二階の彼女の自室へ。

 チラッとお手伝いさんとかも見えた気がする。

 本当にお金持ちみたいだ。


 そして、部屋に入る。

 視界に飛び込んできたのは、元気なぽよちゃん。

 久しぶりに見られてテンションが上がった。


「おーぽよちゃん! 元気にしてたかー!」

「ぽよー!」


 ぽよちゃんめがけて思いっきりハグ。

 相変わらずぷよぷよで気持ち良い。


 だけど見た感じ……うん、変化はない・・

 一旦ぽよったところで、早速尋ねてみる。


「何があったの? 美月ちゃん」

「実は──」


 先ほど、ぽよちゃんが魔石を取り込んだところ、まばゆく光り始めたそう。

 それが知らない反応だったので、心配して連絡してきたとのことだ。

 なんの魔石かは「知らない」と言い張っていた。


「ふむ」


 説明が終わったところで、えりとが口を開く。

 ここは研究家に任せるのがいいか。


「桜井さん。ぽよに触っていいかな」

「もちろんです。お願いします!」


 えりとが美月ちゃんに許可を取り、見た事のない機械を持ちながらぽよちゃんに触れる。

 こんな時に頼れるのはやっぱりこいつだ。


「ほう」

「ど、どうでしょうか」

「これ、取り込んだのあの・・魔石でしょ」

「えっ……!」


 美月ちゃんは徐々に顔を赤くしながら、俺の方をチラリと見た。

 一体どの魔石だっていうんだ。


「あー……なるほど。何の魔石かは分かったが、ここは隠しておこう」

「あ、ありがとうございます!」


 美月ちゃんはえりとに勢いよく頭を下げる。

 何か隠したい事があるらしい。

 めっちゃ気になるけど、なんとなく触れないでおこう。

 

「で、その魔石についてだけど。桜井さんが心配しているような、急にある部分が巨大になったりはしない。多少は膨らむかもしれないが……」

「膨らむんですね」

「ああ。それとこいつの防御力が上がる」

「じゃあ、ぽよちゃんは強くなったんですか!」


 美月ちゃんは両手を合わせて大きく喜んだ。

 えりとの言葉はまだ続く。

 

「だが……こいつはちょっと異常だ」

「異常とは?」

「普通の魔物に比べて能力が上がり過ぎだ。本当にただのスライムか?」


 えりとは疑問の顔を浮かばせる。

 たしかに、コラボ配信の帰りもぽよちゃんの能力には驚かされた。

 もしかして本当に特別なスライムなのでは。


「ぽよちゃん。君は特別なの?」

「ぽよっ?」


 美月ちゃんが両手でぷにっとしながら尋ねるも、ぽよちゃんは自覚はしてないよう。


「えりとさん、どうすればいいんでしょうか」

「まだ判断材料が足りない。心配することは特にないだろうが」

「そうですか……」


 えりとはこう言うが、美月ちゃんはまだ心配している様子。

 見兼ねたえりとが言葉を続けた。


「それでも心配って言うなら、もっとデータを集めてもらわないとな」

「わたし、やります!」

「そうか。それなら……」


 えりとは俺の方を見た。

 なんだ、何を言い出す気だ。


「やすひろと一緒にダンジョンでも行ってくれ」

「なっ!?」

「またコラボ配信ってことですか!?」


 俺は美月ちゃんと同時に驚く。

 しかし、えりとは首を横に振る。


「いいや。桜井さんは良くも悪くも“配信者すぎる”からな。配信を意識しない為に今回は無しだ」

「ということは……」

「ダンジョンデートでも行ってこい。もちろん、それぞれ魔物付きでな」

「「!!」」


 なんだそれ!

 愛犬……いや、愛魔物連れデートってことか!?


「……」


 美月ちゃんはもじもじしながら、こちらをチラ見してくる。


「おいおい、やすひろさんよ。ここは男のお前がエスコートするんじゃないのか」

「お前から言い出したくせに……」


 でもまあ、そうか。

 今回の件は安全に美月ちゃんをダンジョンへ連れ出せて、なおかつ信頼がある人の方が良い。


 我ながら俺が適任なのか。

 そういうことなら!


「分かった! じゃあ美月ちゃん一緒に行こう!」

「は、はい! お願いします!」


 こうして、美月ちゃんとデートの約束をした。


「……デートと表現したのは冗談だからな。とにかくデータを集めてくれよ、データを」


 デートの約束をした!

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