第6話 『バズる』影響ってこんなすごいの!?

 「ぜひフクマロ君と、こちらを頼まれてくれないだろうか」

「これは……」


 安東会長から頂いた資料。


「企業案件ですか」

「そうだ」


 資料は、フクマロを使って商品をPRしたいという企業からの案件についてだった。

 先方は会長の知り合いだという。


「昨日の今日で、ですか。随分と早いですね……」

低目野ひくめの君」

「は、はい」


 疑問を呟くと、会長が俺の両肩をがしっと掴む。


「それだけフクマロ君と君には価値を見出されているんだ。この時点でね。報酬の項目を見たかい?」

「あ、いえ」


 会長に促され、俺は報酬の欄に目を通した。

 

 ……ん? いやいや冗談だろ。

 もう一度しっかり見て……んんん!?

 

「え、ちょ、ええ! え、ええええっ!?」

「言っただろう」


 目玉が飛び出るかと思った。

 なんと、案件依頼料は400万円。


 相場はイマイチ分からないが、昨日たまたまバズっただけで実績も何も無い男と小犬に、この額を出すのか。


 俺の年収ぐらい……いや、普通にボロ負けだ。

 考えていて悲しくなる。

 

「ダンジョン関連の産業は高騰こうとうしているとはいえ、今の低目野君にこの額は中々だろう。“最初に案件を依頼した企業”という肩書きもほしいのか、多めに提示していると思われる」

「そう、ですか……」


 現実が受け止められなくて、曖昧あいまいな返事をしてしまう。

 

「それで、受けてくれるだろうか」

「もちろんです!」


 だが、その問いには元気よく返事。

 ここ数年で一番良いと自覚できる程、ハッキリとした返事をした。


 おそらく俺の目は、どこかの海賊のオレンジ髪泥棒猫みたいに、$になっていることだろう。







「こんなに早く帰れるとは」


 アパートの階段を登りながら、ぽつりとつぶやく。

 なんと、時間はまだ14時。


 安東会長にお話しを頂いた後、午後からは会社が休みになった。

 なんでも「社長に話がありますので」だそう。

 顔は穏やかでも、目は笑ってなかったなあ……。


 そんなわけで、予定などがある社員だけは残り、あとはみんな仲良く午後休になったのだ。

 今は久しぶりに社員のみんなと食事をして、帰ってきたところ。


 何人かは次にもぱーっと行くみたいだったけど、フクマロが心配だったからな。

 一次会で切り上げて帰って来たのだ。


 そうして、


「ただい──おわっ!」

「ワフッ!」


 扉を開けてすぐ、フクマロが飛び込んで来た。

 帰るや否やこれとは。


「ははっ、寂しかったのか。ごめんな」

「クゥン」


 小さな白いモフモフは、俺の胸元で顔をこすりつけている。

 寂しげな顔は、可哀想だけどちょっと可愛い。


「よしよし。ほら家に入ろう」

「ワフッ!」


 仕事帰りのモフモフ。

 ああ、これ良いなあ。


 今日はほとんど仕事はしてないけど、家に帰ったら癒しがあるのは素晴らしいことだ。

 これを人は幸せと言う、のかもしれない。


「フクマロ! 今日は目一杯遊ぶぞ!」

「キャンッ!」


 可愛げな高い声が響いた。





 フクマロと遊んでいたらすっかり夕方になってしまった。


「で、なになに? カメラのここを押します、と」

「クゥン?」


 この時間になって、ようやくやろうと思っていたことに急いで手を付けている。

 

「お、映ったぞ!」

「ワフッ!」


 ようやく手元に持つカメラとPCがつながる。

 この状態なら、録画したものは即座にPCにアップロードされ、配信も簡単に行えると言う。


 会長から頂いた案件は、フクマロと商品を組み合わせて撮ってくれというものだった。

 期限はまだ余裕があるけど、その前に一度自分で配信なり動画撮影なりをしてみようと思ったのだ。


 やろうと思っていたことは、その為の準備だ。


「とりあえずこれで良いかな。これなら案件動画もスムーズに出来ると思う!」


 案件にて俺がするのは、フクマロと商品を併せて撮影するところまで。

 編集などは先方がやってくださるらしいので、とりあえずはできるだろう。


 と、そこまで来て、


「……どうせなら配信してみるか?」

「クン?」


 一度試しに配信してみるのも良いかもしれない、と思い至る。

 

「ものは試しだ! 配信するぞフクマロ!」

「キャンッ!」


 そうとなれば、まずは手順を踏む。

 『配信の際は必ずSNSで告知する』、えりとに教えてもらった戦略を順に行っていく。


 というか、昨日バズっていたのを確認した以来、SNSを見ていなかったな。

 アプリ諸々の通知は切ってあるので、何も届いていない。


 なんで通知を切ってるかって?

 ブラック企業には、営業用のスマホなんて支給されないからだよ!

 仕事でも自分のスマホを使うんだから、通知関連は切っておかなければならないんだよ!

 

「でも配信をやっていくなら、仕事後はSNSをチェックする癖をつけないとな」


 そうつぶやきながら、まずはTwitterを確認する。

 するとそこには、驚きの光景が広がっていた。


「うぉっ!? なんだなんだ!?」


『817人にフォローされました』

『1011人があなたのツイートにいいねしました』

『564人にリツイートされました』


『フクマロ君、早く見たいです!』

『チャンネル登録者もしました!』


『1594人にフォローされました』

『2023人があなたのツイートにいいねしました』


「何が起きてる!?」

「ワフォ!?」


 隣のフクマロも同時に声を上げた。

 俺のアカウントがとんでもないことになっているからだ。


「ええぇ……」


 昨日作ったSNSアカウントはフォロワー30万人超え。

 一応ツイートしておいた挨拶には、2000件を超える返信リプ、20万いいね、7万RTリツイートがされている。

 

 俺とフクマロの自撮りも載せておいたので、本物だと認識されたのだろう。

 

「嘘だろ……」


 今のこの、ダンジョンバブル時代。

 魔物、可愛い、モフモフ、とフクマロには伸びる要素が揃っている気もするが、まさかここまでとは。


 その後、各アカウントを確認したのだが、


「やべえ……」


 配信チャンネルの登録者数は20万人。

 SNSのフォロワーは15万人。


 まさに『バズる』という現象を肌で感じていた。


「一応ツイートしてみるか?」


 俺は震える指で一文字一文字押しながら、ツイートを送信。


『今から初配信をしてみたいと思います。以下URLです。~』


 すると、


「うおっ! うお、おっ!」


 瞬間的にバイブが鳴りやまなくなり、急いでバイブを切る。


 なんでこんなに早く反応できるんだ。

 これが「通知オン勢」とかいう人達なのか。


『今からですか!?』

『やったー!』

『フクマロちゃん見れるの!?』

『夕ご飯作るのやーめた』

『定時前に上がります!』

『仕事やめます!』


 嬉しいといったリプから、それ大丈夫なのかと心配したくなるようなリプまで。

 SNSの通知欄は一気に埋まっていく。


「これ大丈夫かな」

「クゥン?」


 なんだかうまくいきすぎて怖くなってきた。

 同時に、たくさんの人に見られているプレッシャーも感じてると思う。


 でも!


「こんなので怖がってたら配信者なんて出来ないよな!」

「ワフゥッ!」


 俺は思い切って配信を開始した。

 途端に、


《本当に来た!》

《きたああああ!》

《やったあああああ》

《フクマロくん!》

《フクマロちゃーん》

《端っこにいる!可愛い!》

《おすわりしてる~》

《かわいい》

《かわ〜!》


「いぃっ!?」


 配信のコメントがあふれ返った。

 さらに、


「2万人……?」


 同時接続数が2万人。

 告知してから10分にしては、ありえない数字が表示された。


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