第2話
「じいちゃん、久しぶり!」
到着に気づいているはずの祖父は、縁側でぼんやりと空を眺めていた。視線の先には雲一つない、真っ青な虚空。風鈴を鳴らす残暑の風だけが、居間に入った僕を迎えてくれる。
「じいちゃん、何見てるの?」
隣に座って再度声をかけた僕に気付くと、少し痩せたように見える祖父はいつもの表情を取り戻す。
少し掠れた「よう来たな」の声に、高校生ながら哀愁というものを感じる。
父母も揃って簡単に挨拶を済ませると、ほのかに香る線香に誘われるように仏間へ向かう。
祖母が他界して2ヶ月、部屋は思ったよりも綺麗で、祖父の頑張りが垣間見える。
仏壇まわりは特に整理がされており、線香立ての灰も滑らかに整えられていた。
「お義父さん、麦茶のパックはどこです?」
母の問いに渋い表情を見せた祖父は、ゆっくりと立ち上がると台所へ向かう。ただその足取りは定まっておらず、行く宛が分からないように見えた。
「確かこっちの、いや、そっちの棚じゃったかいな…」
大捜索が繰り広げられている台所は、居間や仏間とは打って変わって、とても整理されているとは言えなかった。
流しには数日分と思われる食器が積み上げられ、コンロには洗った形跡のない雪平鍋が鎮座している。
祖父曰く、使う食器がなくなれば手洗いしているらしい。食洗機は使い方がよく分からない上、ピーピーとうるさく鳴き出してからは電源を切っているとのことだった。
祖母の他界を機に設置された食洗機の電源を入れると、懸命に排水不可の表示を点灯させる。どうやら洗いカスのフィルターがいっぱいになっていたようだ。
母は手早くフィルターを掃除し、溜まった食器類を食洗機に預けると、何かを悟ったように脱衣場へと向かった。
予想に反し洗濯カゴには何も入っておらず、かといって洗濯機もしばらく稼働した形跡はなかった。
「お義父さん、洗濯はどうしたんです?」
「風呂の時に一緒に持って入って
昔気質の祖父は、洗濯機の使い方も知らなかったようだ。祖母の苦労を悟るとともに、祖父の頑張りに思わず笑みがこぼれる。
そんな僕を見て、母は呆れたように息をひとつ吐くと、諦めたように家中を確認して回り始めた。
初めこそお義父さん、お義父さんと都度声をあげて確認していた母だったが、次第にその呼びかけもなくなり、ドタバタと作業をする気配だけになった。
父はと言うと、庭に出て汗を拭いながら、草木の手入れを始めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます