捨て犬

高橋優美

ミュージック

暗い部屋に男と女。

二つあった呼吸は、いつの間にか一つになる。



ゆっくり吸い込んで、吐く、空気、いのち。

音楽を聴いていた。

退屈に映る日常が違うものになる。


道行く人々の心の声が聞こえてくる事は、今までに一度としてなかった。

それゆえに、如何なる時も、ただ歩くだけで一喜一憂する事は無論ないのであった。


僕の顔が醜い、だとか、

鞄に付いているキーホルダーが洒落ている、だとか、

アイツ、殺してやる、だとか

聞こえてこない限り。


僕は思い出す。

今先程、目にした光景を。


残酷な死。


僕は処したのだ。

哀れな、罪深き女を。


狭められていく喉から、上手に、器用に息を吸い込み、吐き出したもの。

それは僕に向けられた罵倒や謝罪であった。

…恐らく。


僕は美しいメロディーによって、を耳に入れずに済んだ。



暗い部屋に男と女。

二つあった呼吸は、いつの間にか一つになる。

男は、美しい音楽を聴いていた。

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