目指すは大団円
千石綾子
目指すは大団円
僕はしがないタクシードライバーだ。田舎ではないが大都会というわけでもないこの街で、なんとか食べていける程度の収入はある。趣味といえるような趣味もなく、平凡な顔立ちで性格も地味なせいか、とにかく目立たない。更に引っ込み思案で友達もほとんどいない。
「ジェイク、今オルグ通りとシェビール通りの角の本屋にいるの。急いで来て」
エイミーからの電話だ。彼女は雑誌の編集社に務めている常連客で、いつもこんな風に急ぎの呼び出しをしてくる。
「ちょっと待ってくれ、急いでって言われても……」
無理、という前に電話は切れた。これもいつも通りだ。困ったことになった。
「……という訳だから、この続きはまた今度、ってことでいいかな」
僕は目の前で両手に日本刀を構えた男に問いかけた。
「いいわけないだろう! 大体お前な、闘ってる途中で電話に出るな! 非常識だぞ!」
いや、白昼堂々日本刀で暴れまわるお前こそ非常識じゃないのか。そう突っこみたかったが、やめた。
「シャイニングパンチ!!!」
唐突に僕の右手の筋肉が膨れ上がり光り輝く。そして拳は光の速さで日本刀男の顔面を砕いた。顔が腫れてぐちゃぐちゃになった男は気を失い、あっけなく倒れた。
ロープで男を街路樹に縛り付け、近くにいた野次馬の方へ声をかける。
「あの、急いでるんで代わりに警察呼んでくれますか?」
「分かったけど、サインもらえるかな、キャプテンオーサム」
「ごめん、本当に急いでるんだ。また今度!」
僕は猛スピードで走って、隠しておいたタクシーに乗り込んだ。マスクを脱ぎ、ぴったりと身体にフィットするグリーンの特殊スーツの上から服を着て、大急ぎでエイミーの元にタクシーを走らせた。
僕のもう一つの顔は、スーパーヒーローだ。亡くなった母が言うには僕の父は宇宙人だったそうだ。父譲りのスーパーパワーで人助けをするのが僕の唯一の趣味と言えるだろう。
しかし、二足の
「遅い! 呼んだら5分で来てっていつも言ってるでしょ!」
本屋の前で足を踏み鳴らしながらエイミーは腕組みをして待っていた。かなりご立腹だ。
「あ、いや。丁度他のお客さんが……」
「嘘言わない! アプリで空車だったの確認したんだから」
びしりと指摘される。しかしここで黙るわけにはいかない。
「いや、だから。乗せた親子連れが車内にぬいぐるみを忘れていったから、届けてたんだよ」
これは嘘じゃない。届けに行った先であの日本刀男に出会ってしまったのだ。
「はいはい、言い訳しない。遅れたら素直にごめんなさい、でしょ!」
「……ごめんなさい」
素直に謝ると、エイミーは機嫌を直して車に乗り込んだ。
「この住所にお願い」
メモを渡される。場所は郊外の農場だ。
「取材かい?」
「ええ、宇宙人の侵略が始まっているかもしれないわ」
「──はぁ?」
思わず素っ頓狂な声が出た。半分宇宙人の僕が言うのもなんだが、そんな映画みたいなこと、あるわけないじゃないか。
「この住所に住んでる男性がね、深夜の散歩の途中で宇宙人にさらわれかけたらしいのよ」
「へ、へえ?」
エイミーは真顔で言っている。その深夜の散歩で起きた出来事を真面目に取材しに行くらしい。
真偽はともかく、農場までは結構な距離がある。タクシー代も結構な額になるだろう。タクシーの運転手としては嬉しい限りだ。
しばらく走って、目的地に着いた。異様な気配に僕の肌は粟立つ。空を見上げると、確かにUFOらしいものが浮かんでいた。
「本当に来てたのか」
「敵か味方か……どっちかしら」
エイミーがそう言い終わらないうちに、UFOから熱光線が放たれた。停めておいた僕のタクシーが真っ二つになり、勢いよく燃え上がる。
「……どうやら友好的な相手じゃなさそうだ」
「誰か降りてくるわ!」
UFOから数人の宇宙人がゆっくりと宙を浮いて降りてきた。僕はポケットからマスクを取り出して被り、服を脱いでグリーンの特殊スーツ姿になった。
「あなた……キャプテンオーサムだったの?!」
「黙っててごめん。ここは僕に任せて、君は逃げて!」
「あなた一人じゃ無理よ」
エイミーは気丈にも落ちていたスコップを拾い上げて構えた。
「いいから、僕なら大丈夫だから!」
「いいわけないでしょう! 私だって……」
そう叫ぶと、彼女はおもむろに服を脱ぎ始めた。ぎょっとしたのも束の間、エイミーは紫色の特殊スーツ姿に変わっていた。
「君は……アンラッキー7ガール?!」
敵に様々な不幸を起こさせる能力を駆使して平和を守っているスーパーヒーロー。まさかエイミーがその人だったなんて。
「さあ、私たちが組めばあんな宇宙人なんて……!」
「よし、地球に来たことを後悔させてやろう」
そう言って互いを見つめてうなずくと、僕たちは揃って宇宙人たちの方へと駆けだしていった。
了
(お題:いいわけ)
(隠しお題:本屋・ぬいぐるみ・ぐちゃぐちゃ・深夜の散歩で起きた出来事・筋肉・アンラッキー7)
目指すは大団円 千石綾子 @sengoku1111
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